世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2096
世界経済評論IMPACT No.2096

中国人口バランスの危機

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2021.03.29

 2021年の「両会(全国人民代表大会/全国政治協商会議)」が閉幕した。香港問題,地方債務や国有企業などの話題でかき消された感があるが,実はひそかに注目されていた問題が人口問題である(Leng and Lee 2021)。中国の人口問題は日本でも単発で報道されていたが,人口構造のバランスという意味でかなり危機的状況にある。

 2019年の中国の出生数は1465万人であり,これ自体1961年からみると最低レベルであった。昨年(2020年)の出生数はこれよりもかなり低くなりそうである。毎年1月中旬に国家統計局から前年の出生数が発表されるが,今年は昨年人口センサスを実施したために統計処理に時間がかかっており,4月に出生数などの人口関連データが公表される予定である。そのため現在は地方の状況や公安部から戸籍に基づいたデータから報道が続いている。

 例えば,広州市の出生数はここ10年で最も低いレベルまで落ちている(Leng 2021a)。昨年19万5500人ほどの子どもが生まれたが,これは2019年に比べて17%の下落,2017年と比較すると33%の下落幅である。寧夏回族自治区では8万人ほどの出生数であり,2019年に比べて16%の下落である。省都である銀川市では2万4400人,2019年より11.9%低い。他にも安徽省の合肥市では23%,浙江省の温州,台州ではそれぞれ19%,33%の下落という。

 公安部の戸籍に登録された出生数によれば,1003万5000人であり,2019年の1179万人から15%の減少である。2019年の年少人口(0−14歳)は2億3500万人であるが,この傾向が続くと,14年後には1億4000万人程度と約1億人減少することとなる。これは裏返して言えば,さらなる労働力人口の減少,高齢者人口の増加につながり,人口構造はかなりいびつなものとなる。

 地域別にみると,すでに東北地域(黒竜江省,吉林省,遼寧省)の人口は減少している。黒竜江は2014年より,遼寧は2015年より,吉林は2016年より人口は減少し始めた(中国統計年鑑)。黒竜江省のロシアとの境界にある黒河の出生率は2010年の8.6人(千人あたり)から2019年に3.9人に減少,そして2014年から2018年の間に黒竜江生まれで省外の大学を卒業した若者のうち14%しか省に戻っていないという(Leng 2021c)。

 人口バランスの危機に対応するには,高齢者がさらに働けるようにする退職年齢の延長か,女性労働の参加率を上げるしかない。しかし,前者は計画生育の失政を国民に押し付けるものとして国内から広く反発されているし(Zhou 2021),後者は2016年のふたりっ子政策実施以降,育児休暇などの負担を避けるために,妊娠可能期の女性の雇用を減らす企業も増加している。ちなみに中国の女性労働参加率は60%(2019年)であり,世界平均の47%より高いが,1990年よりもすでに12ポイント減少してきているのである(Leng 2021a)。

 Covid-19の影響もあるかもしれないが,中国は「低出生率の罠」(Lee 2021)に陥っているのは間違い。4月の国家統計局の正式発表でどれくらい出生数が減少したかが注目される。

[参考文献]
  • Sidney Leng(2021a)‘China’s birth rate push trumps gender equality, with women hit with ‘parenthood penalty,’ South China Morning Post, 9 January
  • Sidney Leng(2021b)‘China population: tumbling regional birth rates signal scale of country’s ageing crisis, ’ South China Morning Post, 2 February
  • Sidney Leng(2021c)‘China population: plan to lift birth restrictions in the northeast panned for not tackling economic roots of crisis, ’South China Morning Post, 19 February
  • Cissy Zhou(2021)‘China’s plan to raise retirement age will be gradual process, government researcher insists, ’ South China Morning Post, 14 March
  • Amanda Lee(2021)‘China population: concerns grow as number of registered births in 2020 plummet, ’ South China Morning Post, 9 February
  • Sidney Leng and Amanda Lee(2021)‘China’s ‘two sessions’: population decline, rising debt worries to be hot topics for political elite’, South China Morning Post, 3 March
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2096.html)

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