世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2068
世界経済評論IMPACT No.2068

2035年目標,戦略的新興産業クラスターの構築

朽木昭文

(国際貿易投資研究所 客員研究員・放送大学 客員教授)

2021.03.08

1.戦略的新興産業の集積間のネットワークによる国内サプライチェーン形成

 習近平氏が,第14次5カ年計画(2021~25年)の2035年長期目標策定に関して党中央へ提案した。「自由貿易試験区」の配置をより完全にし,「戦略的新興産業」集積(クラスター)の構築を図る(注1)。

 本稿の目的は,中関村,首都空港,大興空港の近郊の3カ所からなる北京自由貿易試験区における大興空港の近郊北京経済技術開発「亦庄新市街計画」に関して,2035年に向けての集積のセグメント構築の順序を示す。21カ所の自由貿易試験区で同様の長期シナリオが設定されている。

2.北京経済技術開発区における「亦庄新市街計画」の位置づけ

 特に,北京経済技術開発区(山手線内約2倍,119.68Km2)は,先端産業地域,科学技術革新地域,国際ビジネス地域の3つの中の「先端産業地域」に注目してみよう。先端産業地域は,⑴北京経済技術開発区(1994年~),⑵大興国際空港臨空経済区,⑶中日国際協力産業園(第14次5カ年計画2021~25年)などからなる。⑴北京経済技術開発区が明確に「戦略的新興産業」集積(クラスター)の形成を目指す。

⑴「北京経済技術開発区」(1994年~)における「亦庄新市街計画」は,2017~2035年の計画で目的として「戦略的新興産業」集積の形成である。

⑵「大興国際空港臨空経済区」は,国際消費ハブの形成を2019~2035年に目指す。プラットフォーム形成により越境ECなどの国際ビジネス,科学技術研究開発,文化交流,国際人材誘致を目的とする(注2)(注3)。

⑶「日中国際協力産業園」は,第14次5カ年計画の重点プロジェクトである(注4)。その目的は,生命と健康,先端スマート製造,未来モビリティーのリード役となることを目指す(注5)。

3.「亦庄新市街計画」産業集積2035年に向けての前提条件

 北京自由貿易試験区の大興国際空港を軸とする「先端(ハイエンド)産業地域」における北京経済技術開発区に属する「亦庄新市街計画」(2017~35年)の産業集積のセグメント構築プロセスを以下で説明する。

 戦略的新興産業・デジタル経済の集積の前提となる人材に関して,「人材招致」セグメントを構築する。2008年には,中国共産党中央組織部・中央人材工作協調チームは,海外ハイレベル人材招致のため「千人計画」を開始した。国家重点革新プロジェクト,ハイテク産業開発区を中心とする各種サイエンス・パークのための人材招致である。5~10年間で2千人の革新人材を招致するという計画であり,窓口は中国科学技術部である。

 そして,2020年以降の集積セグメント「人材」の構築として,自由貿易試験区を活用し,国家革新システムを整備するために,この「千人計画」強化する(中国電子情報産業発展研究院の王鵬・副院長北京2020年10月29日発新華社電)。

4.集積のセグメント構築の順序

 亦庄新市街計画の出発点となる集積のセグメントは,第1に,2019年に開港した①「北京大興国際空港」である。この建設が,空港と都心とを結ぶ地下鉄の整備とともに「輸送費の削減」をもたらす。この条件は,集積が立地するための必要条件である(Kuchiki(2021)参照)。第2に,2020年の②「自由貿易試験区」の設置である。これは,規制緩和と税の減免などを含む優遇制度である。第3に,2020年からの③「人材招致」の強化がある。次世代情報通信などのデジタル化において人材が存在することが前提条件となる。第4に,集積の形成にとってインフラの建設は有効であり,2021年から2025年までの④「新型インフラ」の建設の予算措置がある。2035年に向けてこれらのセグメント構築により亦庄新市街計画において国内産業育成と外資導入を融合した「戦略的新興産業」集積を形成する。

 要約すると,「亦庄新市街計画」(2017~35年)産業集積のセグメント構築の順序は,①北京大興国際空港開港(2019年),②自由貿易試験区の設置(2020年),③人材招致(2020年から強化),④新型インフラの建設(2021年から2025年)である。

最後に

 北京自由貿易試験区の亦庄新市街計画と同様の戦略的新興産業の集積形成は,経済特区,経済技術開発区で成功し,21カ所の自由貿易試験区で実施される。2035年に向けて確固とした成長戦略がある。

 野村総合研究所と三菱地所設計が計画に参加した「日中国際協力産業園」も準備される(注4)。日本企業は,2035年にむけて中国へ対応が不可避である。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2068.html)

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