世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2036
世界経済評論IMPACT No.2036

西洋の自死

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.02.01

 EUは欧州経済共同体をベースに,モノ,人,サービスが自由に動くように規制・制度を統一して「欧州単一市場」として生まれた。これでEU諸国は主権を持たないで,EUブリュッセル本部にコントロールされてきた。

 EU本部の首脳とドイツのメルケルが,輸出を伸ばすために安い労働者を確保しようと大量の移民を入れることにした。ブリュッセルEU本部は,「人道主義」と「多文化社会」という旗を掲げ,各国に移民受け入れを割り当て,それを強要した。

 最初にやってきた少数の移民たちは,異なる文化,独自の料理を持ってきて,ヨーロッパを豊かにしたように見えた。そしてそれぞれの地域で移民は同化していくように見えた。しかし集団として大量の移民が入ってくるとヨーロッパのあちこちで移民の部落ができて,宗教紛争が起き,ヨーロッパ人を排斥し始めた。移民はヨーロッパの国々の文化,習慣,風習,宗教,道徳,芸術,風土,歴史,ルールを壊し,文明の衝突を起こしてきた。移民によりヨーロッパの国民の賃金は下がってしまった。スペイン,ホルトガル,イタリア,ギリシャではヨーロッパの若者が25%から30%もの高い失業率に苦しんでいる。あまり報道されていないが,移民による殺人,強盗,強姦,少女の人身売買が頻発している。イスラム教徒が教義上別のイスラム教徒を殺害するような事件がEUの各地で起きている。ヨーロッパの芸術も分断され,ヨーロッパでの芸術活動を捨てた人もいる。いろいろの宗教が衝突する中で,ヨーロッパの歴史が錯乱し,「歴史への疲れ」,「欧州疲労」に晒されている。ヨーロッパ諸国がかつてアフリカその他を植民地にしたが,この移民問題は「帝国の逆襲」と言われている。これが「西洋の自死」である。

 ところが移民に対して少しでもネガティブなことを言うと「人種差別だ」という非難があちこちから飛んでくる。これがヨーロッパ人を苦しめている。

 こうした中で中国は,グローバル化戦略という「一帯一路」という旗を掲げて,大量の中国人と金をヨーロッパ諸国に入れて,ヨーロッパ社会を錯乱させている。イギリスもその移民問題で大混乱し,「イギリスの自死」が進んでいる。「ブレグジット」はそれを解決しようというイギリスの決意である。

 こんな状態の中で最近メルケルは移民の大量受け入れが間違っていたことを正式に認め,これから制限すると言った。しかしもう手遅れである。

 もともと移民を多く入れてきたアメリカも「アメリカの自死」現象が起こっている。それに対してトランプは不法移民を取り締まるために「メキシコの壁」を作ると言うと,「トランプは人種差別義者だ」という非難が浴びせられた。

 日本も労働力不足で移民を入れ始め,近年更に移民の受け入れの量を拡大している。日本は,2015年の時点で約39万人の移民を受け入れており,世界で第4位の移民受け入れ国になっている。日本にも既にあちこちで文明の衝突が起こっている。そんな中で,2018年6月日本政府は一定の業種で外国人の単純労働者を受け入れることを決定し,さらに2019年11月には新たな在留資格を創設する出入国管理法の改正を閣議決定した。2025年までに50万人超の移民を想定している。「日本の自死」が起こる。今また世界中で「コロナ疲れ」が起こっており,「西洋の自死」,「アメリカの自死」,「日本の自死」に拍車をかけている。(『西洋の自死:移民・アイデンティティ・イスラム』,ダグラス・マレー著)

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2036.html)

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