世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナ禍の失業者対策にみる日米の差
(福井県立大学 教授)
2020.08.03
コロナ後の世界を見据えた場合,最重要課題のひとつは失業者対策である。なぜなら,コロナ禍において,世界中で失業者が増え続けているが,おそらく,このままだと,世界経済が回復しても元の仕事に戻れない人が多数発生する可能性があるからだ。
これは,1990年以降のリセッションに見られる先進国共通の特徴でもある。たとえば,米国では,第二次世界大戦後の失業率を追っていくと,90年までのリセッション局面ではいずれの場合も8四半期以内に雇用が元の水準まで戻っていたが,90年以降は回復が長引く傾向が見られる。特に,2008年の世界金融危機に至っては,その後の景気回復局面においても失業率は18四半期に亘って8%を超えたままであった。こうした「ジョブレス・リカバリー」現象は,リセッションに襲われる度に機械化や技術革新が進むといった「履歴効果」がその原因のひとつだが,その結果,求められる人材の二極化が進み,それまで,主に,中間層が担っていたような日常業務は消えつつある。これは,世界銀行のチーフエコノミストであったブランコ・ミラノビッチ氏が1988年以降の20年間に世界のそれぞれの所得階層で何%所得が増えたかをプロットした「グローバリゼーションのエレファントカーブ」が示唆する分析結果とも概ね符合する。
さらに言うなら,1991年にロバート・ライシュが自著『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』で指摘した予言が的中したことを意味する。ライシュは,「本質的な観点から見て,競争的な立場の異なる職業に対応した,3つの大まかな職種区分が生まれつつある」として,「ルーティン生産サービス」,「対人サービス」,「シンボル分析的サービス」に分類した。そして,米国におけるルーティンワーカーは減少し,対人サービス従事者は増えるものの,どちらも貧しくなりつつあるとした。一方,「モノ」ではなく,データ,言語,音声,そして映像といった「シンボル」の操作によって国際的に取引できるシンボリック・アナリストこそが「未来の主役」であり,米国民は教育を通じてシンボリック・アナリストを目指すべきとした上で,当時,米国での雇用の2割に満たないこの層の強化を訴えた。
それから約40年経った今,国際人材サービスのヘイズ・グループ(本社:英国)が,世界30カ国以上を対象に,オックスフォード・エコノミックス社と共同で毎年実施しているハイスキル人材の需給動向に関する調査(The Hays Global Skills Index)によると,データ・サイエンティスト,AI技術者,IoT技術者といった高度IT人材へのニーズはかつてないほどに高まっている。一方,そうした人材の供給がまったく追い付いていないのが現状である。中でも,日本(2018年)と米国(2019年)がもっともハイスキル人材のミスマッチが深刻な国となっている。こうした傾向が今後,さらに加速することは間違いないだろう。
米ITサービス大手「コグニザント(Cognizant)」は,2017年11月に発表した報告書(21 Jobs of the Future)において,今後10年から15年で,米国における仕事の凡そ12%がAIなどに取って代わられるだろうと予測しているが,これは1900万人の仕事が奪われることを意味する。その一方で,新しいテクノロジーによって,全体の約13%に相当する2100万もの新たな雇用が生み出されるとも予測している。現に,世界金融危機に見舞われた2010年以降,米国の民間企業では1500万もの新たな雇用が生まれており,こうした民間の活力が米国経済を支えている。
米議会の超党派グループが5月,コロナ禍で失業した人がデジタル関連などの高度技術を習得するプログラムを受講する際に限って,1人4000ドルの職業訓練費用を支援する法案を提出したのは,まさに,こうした認識や背景によるものである。
一方,日本のコロナ支援策はというと,既存の雇用維持や一時的な生活費の補填を目的としたものが中心だ。総務省が7月31日に発表した6月の失業率は2.8%と前月に比べ0.1ポイント低下したものの,完全失業者数は195万人と前年同月比では33万人増え,5か月連続の増加となった。さらに,これには,米国のレイオフに当たる236万人の休業者が含まれていないため,米国の失業率に準じてこれを加えると,潜在的な失業率は6.3%に跳ね上がる。休業者が増えたのは雇用調整助成金によってかろうじて繋ぎとめているからにほかならず,もしも,景気回復が遅れるようだと,そのまま失業者となってしまう可能性が高い。今,日本に必要なのは,アベノマスクではなく,新たな時代に必要な人材を育てるといった未来志向の政策である。
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