世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1795
世界経済評論IMPACT No.1795

コロナロックダウンで分かったこと:露呈したグローバル化のツケ

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.07.06

 安倍首相が,皆にせっつかれて4月7日に「緊急事態宣言」を出してから,日本の街の風景は一変した。テレビで映し出された街は,ゴーストタウンである。企業のビジネス,売上が一瞬で蒸発してしまった。町の騒音は無くなり,まばらに見える覆面の人間は,悪いことでもしたように下を向き,そそくさと歩く。小池さんの「Stay Home」の連呼で,東京の空気がきれいになった。きれいな星が帰ってきた。ガンジス川がきれいになったという。国際エネルギー機関(IEA)によると,2020年の二酸化炭素の排出量は前年比の8%(約26億トン)の減少になると予測した。

 このコロナロックダウンで,企業が,宵越しのカネを持たない「自転車操業」になっていたことがわかった。グローバル化の道を一直線に進んできたトヨタといえどもロックダウンでは3か月しか持たないという。殆どの中小企業は30日も持たない。グローバル化で日本の企業は,大量生産を追い求め,利益率の薄い商品,固定費の高い経営体質になってしまい,ちょっとでもロックダウンすると倒産してしまうものになってしまった。

 この40年間,世界はグローバル化を追い求めたきた。多国籍企業は,大量生産で,価格切り下げ競争を繰り広げ,労働者の賃金を下げ,商品のムリ・ムダ・ムラを省き,「最大限利益」を追求してきたが,その結果は,誰も儲からない世の中になってしまったことが分かった。中国も,グローバル化の尻馬に乗ってしまい,経済の崩壊が進み,国土の砂漠化が進んでいる。グローバル化した商品は欠陥商品になることが多い。自動車業界のVWや日本の企業も,コストを下げるために,意図的に欠陥商品を造って売ってしまった。つまりイノベーションができない体質になってしまった。グローバル化のために,コロナウイルスもあっという間に,地球上に拡散され,「誰がコロナウイルスを撒いたか」という議論で,コロナウイルス戦争が起きている。

 グローバル化の中で,最近の日本文学も「クリスタル」,「透明」を追い,空虚になり,空中分解してきている。写真の世界も,彩度を極限まで追求する「色飽和」現象を起こし,絵画も奇をてらうものしか見られなくなり,音楽も飽和現象が起こり,集団の大音量の時代になり,「人間の感覚外の領域」に進んでいる。人間は「大地」から離れてしまい,人間の「心」が消され,「感覚」を失ってしまった。人間は,空虚な「金」だけを追い求め,その金という麻薬が切れるのを恐れて,のたうち回る。最近の相撲も,神事ではなく,張り倒しでも何でもして勝つことが目的になってしまった。日本の「武士道の精神」も消されてしまった。これもグローバル化の行き過ぎのためである。

 マスプロ商品の生産のための国内の過剰な生産設備の廃墟の山。世界に投げ込まれた膨大な金。石油も鉄鋼も過剰。不動産も過剰。食品も衣服も素材も過剰で廃品の山が続く。飛行機も新幹線も死んだように動かない。政治も大混乱し,国民を守らない国になってしまった。こうしたことがコロナロックダウンで見えてきた。正に,杜甫の嘆きの「国破れて山河あり」である。

 ヒト,モノ,カネが世界を回りすぎ,人間を「今だけ,カネだけ,自分だけ」というものにしてしまった。膨大な破棄プラスチックの山,家電商品廃棄の捨て場が続く。グローバル化で経済が混乱してくると人はじっとしておれなく,動き回る。今では飛行機が自分の宿であり,ネットカフェ―が住処になった。グローバル化で紛争が起きると難民が増大して,国ぐにの文化を破壊し,そして難民は捨てられていく。

 グローバル化を進めたマーガレット・サッチャーは「社会など存在しない。あるものは個人だ」といった。グローバル化が社会と人間を砂にし,砂漠化した。人間の絆を破壊してしまった。

 商品も,地域の文化に根差した特異な個性をもったものがなくなり,味気のない安物商品であふれてきた。かつての商品は素晴らしいものがあった。自動車でもGMのフルサイズカー・キャデラック,フォードのModelT,リンカーンコンティネンタル,ドイツのVWカブトムシ,メルセデスベンツ,日本の小型車があったが,今ではみんな同じような安物の車になってしまった。確かにいろいろの電子部品はついているが,この車に乗りたいというものがなくなった。家電商品でも,昔のGEの堂々とした冷蔵庫やオーブン,ソニーのウオークマンや鮮やかな色のトリニトロンテレビ,東芝の電気炊飯器,洗濯機,松下のテープレコーダーなどのような魅力あるものが今は無くなった。個性のない魅力のない道具になってしまった。これらがウオールマートや安売りのダイエーやディカントショップでとてつもなく安く売られ,ますます安物になっている。日本でも中国で造られたような100円ショップの商品が市場にあふれている。日本人はこのような商品で我慢してしまった。これで日本の品質管理の技術力を不要のものにしてしまった。無国籍企業が,国家の主権的な管理力を弱めてしまい,国民を助けない小さな政府で良いという。大企業も「創業的経営者」を追放してしまった。

 神が,コロナウイルスを使って,人間がグローバル化で造った廃墟化した「バベルの塔」を壊しているのである。東日本大震災もそうであったのかもしれない。

(2020年5月10日)

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1795.html)

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