世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1706
世界経済評論IMPACT No.1706

新たな世界秩序の勝者と敗者は誰か?:パワーシフト,ついに西洋から東洋に

瀬藤澄彦

(帝京大学 元教授)

2020.04.27

地球的な課題管理能力による政治的影響力の時代に

 マクロン大統領は「見えない敵に対する戦争だ」と3月17日のテレビ演説で言明したが,それではこの戦争の勝者と敗者は一体誰なのか。これについて日本経済新聞の秋田浩之氏は4月11日付けで「遠のく中国主導の秩序」と題して論評,「中国の世界への影響力が弱まり,その覇権は遠ざからざるを得ない」と思い切った発言をしているが本当だろうか。少なくとも欧州の英国やフランスのメディア,イタリアの中国依存の高まり,などを見ていると早まった危険な予測であるように思われる。ニューヨークのユーラシア研究所長イアン・ブレアーが,米国のリーダーシップ不在が世界をGゼロ時代に突入させたと喝破したのはもう8年も前の2012年である。主要国G7,G20も「政治的,経済的価値観」の共有ができず真のリーダー国不在の世界が続いていた。世界的な力の不均衡は,民主主義,人権,貿易,投資,環境,先端技術,国際標準,などを巡って米国と中国の対立に加えて米国と欧州の協調のなさで,グローバル化に逆行する動きが顕在化していた。米中以外の先進国と新興国も地域限定的なまとまりさえできなくなりつつあった。

 コロナ感染世界地図ではどの国が感染者数と死者の多寡によって比較されうるかという国別の勝利と敗北が,その後の世界的な発言力に影響する。そこでは軍事力や経済力という仕分けでなく,環境や医療の管理能力という地球的な課題によって政治的影響力が決定づけられていくかもしれない。欧米の政治的リーダーや有識者の発言にもそのような兆候を感じさせられる発言が続いている。マクロン大統領は「このコロナショックは多くの教訓を残すであろう。これまで確信していたことや信念が一掃されるであろう。不可能と教えられたことが発生している。たとえ勝ったとしてももう過去への回帰はないだろう」と述べた。ドイツのジグマル・ガブリエル社会民主党元党首は「次の世代はグローバリゼーションの動きに対してもっと慎重になるだろう」。イタリアの元首相レンツイは「将来の世界のあり方を再検討する特別委員会を創設しなければいけない」と訴えた。米国のキッシンジャー元大統領補佐官も同じように「ポスト・コロナ世界新秩序への移行を準備しななければならない」と呼びかけている。国連事務総長アントニオ・グテレスは「大国同士の関係は機能不全に陥っている」と嘆いている。

東アジアが西欧に対してコロナ戦争に勝利した

 欧米の多くの専門家は,中国か米国のどちらが果たしてポスト・コロナウィルス・パンデミックの世界のリーダーとして浮かび上がってくるのか論じている。英国ザ・ガーディアン紙によると英国の多くの有識者は,東アジアが西欧に対してこのコロナ戦争に勝利したと報じている。欧州では韓国生れのドイツの哲学者ビュチョル・ハンが,勝利者は日本,韓国,中国,香港,台湾,シンガポールの6カ国・地域で,それはその儒教的な文化から由来する権威主義的な文化風土が,疫病に対する管理と治療をより徹底することを可能ならしめたおかげであるとしている。そうかもしれない。国民は欧州よりも普段の日常生活において反抗精神が内在化して従順であり,総じて国家とか政府を欧米人よりも信頼しているように見える。日々の生活も秩序だって組織化されている。ウィルス問題には感染や伝染の専門家だけでなく,科学者やビッグデータ専門家も西欧以上に動員して行われている。中国はこの危機の時をとらえてデジタル先端技術国家として世界に地位を固めようし,そのシステムを誇りをもって示そうとしている。またフランスのヅクロ元大使モンテーニュ研究所顧問によれば,中国はすでに宣言されない冷戦戦争をしかけていると発言している。主導権争いでは中国の勝利によってパワーシフトは西洋から東洋にシフトする。それを韓国とシンポールの迅速な感染処理が証明するように,中国も最初の失策をうまく事後処理した。欧州の左翼知識人ではスロヴェニアの哲学者スラヴォイ・ジジェクのように,このアジア型の権威主義的な感染退治を恐れる西洋は今後,人間の顔をした新たな“野蛮主義”に戦々恐々とせざるを得なくなる。

コロナ危機は米国の“スエズ危機”

 インドの外交官でアショカダウ大学教授シブシャンカル・メノンは「独裁的主義的でない韓国と台湾が,アジアでも権威主義的なリーダーやポピュリストな指導者の国より早く迅速に成功した」。米国のフランシス・フクシマは「危機への実効ある答の主たる違いは専制か民主の区別でない」とし,核心のポイントは政治の種類でなく国家の能力で政府の信頼力であり,その点でドイツと韓国を挙げている。韓国の新聞は都市封鎖することなしに事前処置の治療対策が功を奏したものとして注目されている。ドイツのメディアはドイツが韓国のサース疫病時の経験を,どのように真似ようとしているかを報じている。これは日本では余り紹介されてないがドイツ,英国あたりでは礼賛に近い形で報道されている。しかしジョセフ・スティグリッツ教授は,韓国が輸出主導の国でパンデミックが西欧を襲うと,そのグローバル価値連鎖が脅かされ長期的な困難に直面するだろうと警告している。孤軍奮闘しているイタリアのジェゼッペ・コンテ首相は,メルケル首相同様,コロナ危機でその支持率が急上昇し不人気を挽回した。

 そのイタリア出身のEU外交代表ボレルの女性補佐官ナタリ・トッチ(Nathalie Tocci)の言葉で締めくくろう。「コロナ危機は,丁度1956年スエズ危機で英国が世界的パワーから凋落したのと同じようにコロナ危機は米国の“スエズ危機”を意味する」。西欧は今,自戒と後悔の念に駆られようとしている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1706.html)

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