世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1703
世界経済評論IMPACT No.1703

情報リテラシー

高橋岩和

((一財)国際貿易投資研究所 客員研究員)

2020.04.20

 かつて法学部の一年生に「法律学リテラシー」という科目を教えたことがある(春学期だけの半期科目)。法律学において「法哲学」や「法制史」といった科目も重要であるが,「法解釈学」が履修の中心となり,その場合「六法」という名称で呼ばれる法令集を自在に利用できるようになることが必要であること,法律の解釈は「法的三段論法」で行われること,「実体法と手続法」は並行して学ぶことが有用であることあることなどを教えた。

 また,以上と並行して,法学文献の調べ方,法学のレポート・論文の書き方についても教えた。文献検索については図書館に行き,パソコンを使って検索する方法を実地に教え,また法律レポートの書き方については,任意のテーマで小レポートを書いてもらいそれを添削する形で,テーマの設定の仕方,論理の組み立てと結論の導き方などについて教えた。

 ところで,昨年(2019年)末からコロナ・ウイルスが世界的に流行している。日本においても流行があり,国と地方自治体において非常事態宣言が出されて,飲食店業等における一時休業,外出の自粛要請などが出されている。この伝染病については,その発生と伝播の仕組み,社会生活に与える影響などがよくわからず,市民生活に不安が広がっている。そこで,これを一つの事例として自分なりに「情報リテラシー」を実行してみようと思って取り組んでみた。

 コロナ・ウイルスは中国で感染が始まり,猛威を振るった後,欧州各国に蔓延し,今はアメリカにそれが移っている。コロナ・ウイルスへの感染の恐怖は,人々の思想と行動に大きな影響を与え,ここ数十年来「国際市民社会における共生」といった理念のもとで一般化した「国際社会のグローバル化」の進展に影響を与えつつある。それは,近時の移民・難民の受け入れ激増にともない引き起こされた市民社会内部の軋轢にさらに輪をかけるような作用―差別や排斥といった行動の誘発―を見せ始めている。これを回避するには,この伝染病について正しく知り,対処することが何より必要であり,そのためには市民一人一人の「情報リテラシー」の向上が欠かせない。

 取り組んでみてわかったことは,この問題についての情報がメディアにおいてあまりにさまざまに流通していて,納得のいく自分なりの結論にたどり着くのは極めて難しいということであった。新聞,地上波のテレビに登場する識者や医療関係者の説明があまりにまちまちで,なかなか事実を把握することが難しいのである。そこで,情報リテラシーにおいては,「情報源」「事実の把握」「事実からの推論と結論」といったことが問題となると考え,それぞれについて鋭意取り組んでみた。

 「情報源」については,新聞,地上波テレビを中心としたが,実は「ネット」が最も知りたいことを教えてくれるものであることが分かった。購読している新聞が都道府県別の新規罹患者数等の細かい数値を毎日報じていたので,それを切り抜き,グラフ化などもしてみた。地上波テレビでは毎日各種のニュースショーなどをみたが,もっぱら感染者数の増加と生活上の注意点などが伝えられ,かえって不安を覚えるほどであった。これらの中で,あるネットTVの番組で統計学の立場からの解説を見つけることができ,そこから「流行曲線」を見ることの必要性,感染者数の上昇・下降カーブの意味などを教えられた。入院者数,治癒・退院者数については厚労省のHPで見つけた。

 こうして集めた情報から「推論を積み重ね,結論に至る」努力をしてみた。

 たどり着いた結論は,このウイルスが空気中に3時間,物の表面で3日生き,感染の場合,半分が無症状,三割が軽症,二割が重症であることを知り,対処の手順としては(1)熱,咳,倦怠感が四,五日続く場合,(2)医院で,レントゲンで肺炎診断を受け,(3)コロナ・ウイルスの疑いある場合(武漢渡航歴など),PCR検査をするという,通常の風邪の治療をするなかで,検査の必要な人を選別して一層の治療するという「二段階構えの対処方法」の実践が正しい方向であることを把握するに至った。地上波テレビでコメンテーターが口を揃えて主張していた,この(1)~(3)の手順を踏まずにPCR検査をいきなり受けても40%の確度でしか感染の有無ー陰性陽性判断―が出来ず,かえって,いたずらに検査数を増やしても重症化していない患者で病床が溢れて,「医療崩壊」が引き起こされかねないことも知った。

 日本は今,改正新型インフルエンザ対策特別措置法の施行のもとで,医院と保健所という二段階での検査体制のもとでクラスターの発見に一層注力し,軽症者と重症者を区別して対処し,三密(密集,密閉,密接)を回避し,これに該当する店舗等には休業要請をするという対策を続けている。その結果,検査数は増加し,感染者の発見数は増えてきているが,欧米と比べると死者数は桁が違うほど少数に抑えられている。

 今回の伝染病の蔓延は,ワクチンの開発,薬の開発などにより克服されるものと思われるが,半年で終焉するのか,数年も続くのか不明である。一年も続くとなれば,経済生活に甚大な影響が生じ,社会経済を揺るがすことは必至である。今後,これらの点について,錯綜する情報の中から必要な事実・データを選別し,自分なりの納得する論理を組み立てることになおトライしてみたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1703.html)

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