世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1617
世界経済評論IMPACT No.1617

“課題国家“米国と日本の難路:再生日本への提言

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.02.03

アメリカの問題点:イノベーションの停滞

 昨今の米中の争いは,1990年以降のアメリカ経済の衰退から起こったものである。1920年から1980年にかけてアメリカ経済は,資本主義活動の制御装置と社会の拮抗構造を創り,「高度大衆資本主義」という黄金時代を築いた。しかし1971年からあるグループが,新自由主義とグローバル化により,そのアメリカの資本主義の制御装置と拮抗構造を破壊して,金融資本のマネーゲームを世界に仕掛けた。そのために賃金は下がり,労働組合は弱体化し,所得格差が悪化し,ノベーション力が弱体化し,アメリカ経済は停滞してきた。

 アメリカは株価を吊り上げているが,製造業は減少しており,小売企業はどんどん店を閉じている。自動車産業,エネルギー産業,鉄鋼産業の雇用が急減している。シリコンバレーのGAFAも雇用を拡大してはいない。トランプ減税,金融緩和で景気は良いように見えるが,実体経済は良くない。これをトランプが変えようとしている。

 産業が続けて発展するには,(1)コンティニュアス・インプルーブメント,(2)プロセス・イノベーションと(3)プロダクト・イノベーションの3つをやらなければならない。アメリカは1990年以降,(1)と(3)を辞めてしまった。(1)をやらないと既存の産業は衰退し,退場する。アメリカはこれをやらなかったので,GE,コダック,ゼロックス,GMなどが衰退している。(2)をやっても,コストは下がるが,多くの場合新しい職場を創造しないし,むしろ効率化で人間の職場を減らす。(3)は新しい商品,新しい産業を創造することで,人間の職場も増える。必要なものは(1)と(3)である。アメリカのGAFAは(2)であり,(3)ではない。日本は(1)を少しやっている程度で,(2)も(3)もやっていない。

 アメリカが名実ともに世界の覇権国になったのは1945年に世界のGDPの50%を占める経済力になった時で,覇権国の座に着いてから50年余りしか経っていない。オランダは130年,イギリスは100年であったことに比べると,アメリカの覇権の座は大変短い。だからトランプは中国に覇権の座を渡すことはできない。

世界の分裂化の中で日本はどういう道を進むべきか:正しい経済政策とその考え方

 日本は平成になり30年間デフレを続け,GDPは伸びず,先進国の中で経済では日本が一人負けである。これは日本が経済政策を誤ったからである。先ずこの20年間の日本の執った経済政策は失敗であったということを認めることである。この認識に立ち,今起こっている米中覇権戦争のなかで,これから日本経済をどう立て直すかを考えなければならない。

 この20年日本政府は次のような経済政策を実行したが,日本経済は悪くなっている。非正規社員制度(賃金の引き下げ,実質賃金も名目賃金を下落している),移民拡大(賃金引き下げ,日本文化の破壊),働き方改革(残業代を払わない),異次元の金融緩和(国民の金がリスクの高い海外で使われる,ゾンビ企業の存続),国による株価の買い支え(実体経済からの遊離,金持ちに有利),緊縮財政(GDPを縮小する,デフレを促進),独立行政法人で大学への助成金の削減(イノベーションの減退),IR法案(ギャンブル依存症の促進,国民の所得を巻き上げる,マネーロンダリングの促進),何でも民政化(外国に日本の事業,資産を売り渡す,公としての社会インフラを壊す),金証法の改正(詐欺的行為を見逃す),消費増税(消費のペナルティで経済を縮小さす)等が日本政府が実行してきた経済政策であるが,日本がデフレから脱却し,経済力をつけ,国民を豊かにするには,このような経済政策の「真逆のもの」を実行しなければならない。

 日本経済の衰退は,アメリカの尻馬に乗り,構造改革と称して,グローバル化に走り過ぎたためである。アメリカもイギリスもすでに反グローバル化に舵を切って,経済を立て直しているが,日本は未だにグローバル化に走っている。但し,筆者が言うのは,「グローバルの行き過ぎの是正」であって,「保護主義」ではない。比較優位で国際分業が進むように国民国家としての発展の経済政策ができるような社会にすることである。

日本の思い込みを捨てる

 日本は,資源がない国なので,食うものも食わないで,緊縮財政で,労働賃金を低くして,「コストカット」で安い商品を造り,アメリカに輸出ドライブをかけるのが「経済政策」と考えてきた。日本の経営者は,無駄をなくし,コストを下げるために非正規社員制度をつくり,移民を入れて,労働賃金を下げるのが自分の仕事と考えてきた。それによる安い商品でアメリカの市場を荒らしたために,アメリカから叩かれて,半導体産業,家電産業は潰されたてしまった。残った自動車産業は,アメリカに生産工場を移して現地の労働者を使い(産業の空洞化),何とか生き延びている。「コストカット」と「緊縮財政」という思いこみを日本は捨てなければならない。

デフレ脱却

 先ずデフレから脱却することである。これにより国民の意識をポジティブにする。具体的なプロジェクト明確にして「積極的な財政投資」をする。これで先ずGDPを700兆円のレベルにもっていく。MMTの理論でインフレをコントロールする。賃金引上げ,労働分配率の正常化,生産性向上投資,国土のインフラの増強革新投資,教育投資,通信インフラ5G投資,デジタルインフラ拡充,先端技術開発投資とやるべきことは沢山ある。

 大型補正10兆円以上を4年ぐらい続けることである。そして消費税の減税を断行する。景気を良くすればベンチャーが現れる。中小企業も生産性を上げる投資をする。少子化も所得が低いから起こる。保育所の問題ではない。所得が上がれば結婚は増え,人口は増える。

国立シンクタンクの創設

 現在の日本には五感と頭脳がないような状態になっている。日本は情報力が欠落している。世界の情報を取集し分析する組織をつくる。銀行,商社,産業を含めた外交活動を通じ,情報を集め分析することと同時に,情報通信機関を通じる情報収集とその分析をする。そのために日本のシンクタンクとして「経済企画省」を設立すること。

日本産業の使命

 企業経営はコストカットではない。新しい市場価値を創造することである。そのためには科学技術投資予算を増額し,先端科学技術開発のための国に投資を拡大する。国立大の行政法制度の撤廃し,大学への補助金を増額すること。「成果があるというエビデンス出せば予算をつけるが,それがなければ予算を付けない」という現在のやり方を改めること。新しい先端技術の開発は,やる前に最初から成果が見えるものではない。

 こうして日本産業が世界経済の発展の機関車にならなければならない。

 かつて日本とドイツは世界経済の発展の機関車と言われていたことがあるが,日本の役目はその「機関車」になることである。世界の覇権を取るというそぶりをしてはならない。日本の経営者は,カルロス・ゴーン氏のやった「コストカット」を忘れて,「コンティニュアス・インプルーブメント」と「プロダクト・イノベーション」を進めなければならない。

米中覇権戦争の中で日本はどうすべきか

 米中覇権戦争の中で,日本は,どちらに味方したら得なのかと二股でアメリカと中国に付き合って,漁夫の利を得ようとしている。これでは日本はアメリカからも中国からも叩かれることになる。日和見的な態度ではなく,主権国家として日本国の国防力と経済力を増強する政策を推し進めなければならない。これまで日本はどちらについたら利が高いかで動いてきた。この考えはもはや通用しない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1617.html)

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