世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1605
世界経済評論IMPACT No.1605

ナショナリズムはインターナショナリズムによってしか克服されない

末永 茂

(エコノミスト  )

2020.01.20

 トランプ大統領のスタンスを批評するジャーナリズムは後を絶たない。「ブレーンはいるのか? 一体誰なんだ!」「ナショナリズムを煽っている」といった類の批評が,毎日のように報道される。あまり上品とは言えない発言が目立つためかと思われるが,SNSやインタビューは彼の単なるパフォーマンスと見るべきでことであり(もちろん,そのことによって大きく世論は動くことにはなるが),実際の政策批評は“President Report”や専門家の政策報告書を分析すべきであろう。

 同じように,イギリスのEU離脱問題も「共同体主義」の裏切り者,欧州秩序への反逆者扱いの様な論評が目立つ。だが,果たしてそうなのであろうか? 今月9日にイギリス政府は欧州連合(EU)離脱法案を下院で可決し,いよいよ離脱は現実のものになりそうである。またスコットランド独立運動の展開は,ナショナリズムとリージョナリズムの台頭と複雑に絡んだ現象である。スコットランドはイギリス政府の支配から脱却したいとする一方で,EUからの離脱には反対している。つまり,際限のない領土分割運動とは一線を画しているのである。

 さて,こうした国際情勢の中でナショナリズムとインターナショナリズムの相克を考えてみたい。我が国は明治維新によって,幕藩体制というローカリズム的限界を乗り越えた。国民国家の原則を受け入れ,ヨーロッパ近代国家の命運とともに歩むことになったのである。20世紀の「戦争と革命の時代」は第2次世界大戦では終了せず,朝鮮戦争とベトナム戦争へと連動し,1930年代からの大規模な戦乱は半世紀に及ぶことになる。

 だが,拡大する人類の諸活動は地域経済の限界を凌駕する以外に,解決の方途は存在しない。高橋亀吉は開戦前夜にあって,国内経済の限界を広域経済に求めている。つまり「日本なり,獨逸なり,伊太利なりが,ナショナリズムによつてここまで勃興したとする,そしてその上に現状打破をやろうとするならば,一層大きくならうとするには,新しいインターナショナリズムを自分で持たない限り駄目だと思ふ。」(『東亞經濟ブロック論』千倉書房,1939年5月。p.308より引用)と主張している。ブロック経済の結末は帝国主義戦争の延長上にあったわけだから,歴史必然的に崩壊するものとなった。悲劇的な制限的インターナショナリズムだったと理解すべきであり,この反省の上に戦後世界体制は周知のIMF-GATT体制となった。自由貿易と開発の国際的拡大策を執ることになるのだが,その限界が至る所で綻び出してきたというのが現状であろう。しかし,ナショナリズムはインターナショナリズムによってしか克服されない,とするテーゼはより普遍的である。増え続ける人口と経済活動の世界化は,「全球システム」を如何なるものに創り上げるのかに関わっている。

 リーダー国不在の世界は不安定である。古代中世から連綿と継承される中華大帝国の再来もありうる国際情勢である。だが,中国の政治体制は近代的意味における成熟とは,かなり距離がある。今なお,レーニン主義的政治体制抜きに,そして強固な軍事システムを前提にしなければ国内政治も経済も維持できないからである。加えて現時点での世界システムは,G20という結論の出ない国際会議体制から脱却しなければならない。そして「新日英同盟」の締結,さらに「日米英3国同盟(G3)」へと発展させ(注),一日も早く「世界の司令塔」を構築することでなければならないだろう。近代システムの膨大な情報集積と知的遺産を現代的に再生・再編成する最大のチャンスである。

 水平分業論をコアにした国際開発戦略の結果,我が国の産業(農業・製造業)空洞化は著しいものになった。これに代わる産業政策として観光立国(2020年目標4,000万人),外国人労働力や移民受け入れを助長しようとしているが,年末の杜撰な出入国管理事件で国家治安維持に大きな汚点を残した。時代はアンシャン・レジームやUpstart management,桃源郷的チャートからも解放された統治を求めている。現代の世界版図は国際協調路線だけでは不十分であり,独創的でリーダーシップの発揮しやすいシステムでなければ機能しなくなっている。国際的地域共同体論からフリーハンドとならなければ,真にインターナショナルな戦略を立案することは難しい。

[注]
  • *新日英同盟や日米英同盟(G3)に関しては,以下の論考を参照していただきたい。
  • 1.秋元千明「ユーラシア大陸またぐ日英同盟の構築を」「外交」編集委員会『外交』時事通信社,Vol.20,2013年7月。
  • 2.秋元千明「今なぜ日英同盟『復活』なのか;膨張する中国とロシアに『平和と安定の正三角形』で対峙」WEDGE Report,2018年2月1日。
  • 3.(公財)日本国際フォーラム「ユーラシア国際戦略環境と日本の大国間外交」(研究会主査・渡邊啓貴)2019年10月30日。この研究会ではBREXIT後にグローバル・ブリテンの国際戦略を報告している
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1605.html)

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