世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1484

EU新体制の多難な船出:フォンデアライエン氏,欧州委員長に就任

田中友義

(駿河台大学 名誉教授)

2019.09.16

 EU(欧州連合)主要機関のトップが今年10月から11月にかけて一斉に交代する。欧州委員会委員長はジャン=クロード・ユンケル氏に代わって,ドイツの前国防相ウルズラ・フォンデアライエン氏が,ECB(欧州中央銀行)総裁には,マリオ・ドラギ総裁の後任としてフランス出身のIMF(国際通貨基金)専務理事のクリスティーヌ・ラガルド氏が,欧州理事会常任議長(いわゆるEU大統領)には,ドナルド・トゥスク氏を引き継いでベルギー出身の43歳の若手シャルシャル・ミシェル首相がそれぞれ就任する。フォンデアライエン氏,ラガルド氏いずれも初の女性トップということで,新体制の清新さをアピールする効果は大きい。

 ただ,これら2女史の手腕はまったく未知数である。1993年11月のEU発足後,ますます重要なポストとなっている欧州委員長には首相経験者が4名と最も多く,財務相の経験者1名(EU中興の祖と称されたフランス出身のジャック・ドロール氏)が就任したに過ぎない。フォンデアライエン氏のように国防相からの就任は初めてのことである。同氏はアンゲラ・メルケル首相の側近であり,後継者の一人とみられていたが,ドイツ国内での評価は必ずしも高くないし,知名度不足である。欧州委員長として,どこまで指導力を発揮できるのか,期待先行の感を免れない。もう一方のラガルド氏は,仏財務相やIMF専務理事としてのキャリアの評価が高いものの,歴代のECB総裁は全て各国中央銀行総裁経験者であり,未経験者のラガルド氏が金融専門家でないという点で,どこまで手腕が発揮できるのか予想がつかない。

 今回のEUの首脳人事を巡って,エマニュエル・マクロン仏大統領・メルケル首相の密議で決める旧態依然たる「密室政治」が新体制の清新なイメージを毀損することになった。EU首脳人事を決定するEU首脳会議は大紛糾し,延3日間の異例の延長となった。2人の女性トップという大胆な人事案で事態を打開したのが,マクロン氏だった。現地メディアは,「マクロン氏の勝利」と報じたが,欧州議会での新委員長承認に向けて大きな禍根を残すこととなる。

 EUの民主的制度改革を目指して,5年前に欧州議会の最大会派の筆頭候補の中から,欧州委員長を指名するルールを作った。ユンケル現委員長はこのルールによって指名された。そのルールが仏独首脳らによってあっさり反故されてしまった。フォンデアライエン氏が所属する与党CDU・CSUは同氏を支持するが,連立政権を組むもう一方のSPD(社会民主党)は同氏の起用に猛反発,メルケルは首脳人事採決で棄権に回ることを余儀なくされた。新委員長の後ろ盾は盤石ではない。

 ルール違反した仏独主導の合意で,欧州議会の各会派が推薦する候補者が選ばれなかったことに不満が噴出,フォンデアライエン氏が欧州議会で承認が得られるかどうか不透明な状況になった。同氏を支持する会派だけでは過半数に達しない。同氏は他の会派の支持を得るために多くの約束してしまった。欧州議会での信任投票の結果,賛成票383票,反対票327票と6票の僅差で辛うじて承認されたが,EU機構運営の難しさを浮き彫りにした形だ。強権政治色を強めているポーランドやハンガリーなどEU懐疑派議員が所属する会派の支持を得たことも,今後のフォンデアライエン氏の舵取りに危うさを感じさせる。EU新体制は多難な船出となる。

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