世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1401

地域産業振興に向けたクラスター支援組織の評価:ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州の取組み

川端勇樹

(中京大学経営学部 教授)

2019.07.01

地域産業振興に向けた支援組織

 産業競争力の低下や経済成長の鈍化に直面している我が国では,各地域における競争力のある新産業の振興が急務である。これには中小企業をはじめ,大学・研究機関等の間で従来の枠組みを越えた異分野間連携による協働の実現が不可欠である。ここで重要な役割を果たすのが,異分野間の自己組織的な連携を促進させるための支援組織である。実際,各地域では「〜協議会」等の名称で設立された支援組織が所属メンバーに対し,学習機会,マッチングや事業化推進支援等を提供している。これら支援組織が地域の産業振興戦略のもとで,より効果的にパフォーマンスを挙げるにはいかなる取組みが必要であろうか。本稿ではドイツの中でも先進的な施策を展開しているバーデン=ヴュルテンベルク(BW)州に焦点を当て,その取組みを紹介する。なお本稿の背景については前回寄稿(「産業振興に向けた地域システムの構築と運用:ドイツの経験からのレッスン」2019年1月28日)を参照していただきたい。

バーデン=ヴュルテンベルク州の取組み

 ドイツでは各州が新産業の振興策(クラスター政策)を進めている。BW州においても自動車等の従来産業への依存から,大学,研究機関,革新的な中小をはじめとする民間企業の異分野間連携による新たな産業分野の振興に取組んでおり,各地で生成した産業ネットワークの支援組織(クラスター組織)を州政府がサポートしている。州政府はポータルサイトを作成し,活動状況・メンバー数・体制等で一定基準を満たす支援組織をデータベース化して様々な活動支援をしている。その中でも特に支援組織のマネジメント力の強化(Professionalization of Cluster Management)に力を入れており,そのための施策として「Quality Label」という認証制度を導入している。

 Quality Labelは,欧州委員会(EC)のEuropean Cluster Excellence Initiativeが提示した認証基準をBW州の状況や方針に合わせて改訂したものである。申請した支援組織を対象に,州政府の諮問委員会の審査を経て認証に至る。審査は厳格に行われるが,申請側にとっては自らの活動やマネジメントの再検討により更なる向上の機会となり,また認証されれば高評価を受けた支援組織として提携先の開拓やメンバーの獲得等の面で活動に有利に働くことから,認証へのインセンティブは大きい。審査は34の指標を基に進められており,上述ポータルサイトには以下の評価項目が掲載されている。

  • ◆メンバーの結束・構成・規模・地域へのフォーカス
  • ◆支援組織の活動期間・職員数(正規職員ベース)・職員の資質・トレーニング・離職率
  • ◆メンバーの退会率
  • ◆支援組織の意思決定体制(規則,役員会等)
  • ◆メンバー間のコミュニケーション・プロジェクト等の協働
  • ◆外部との協力関係(地域イノベーションシステムへの統合)
  • ◆支援組織の財源・その構成(民間の割合)・民間の割合の推移
  • ◆戦略,方法論に沿った活動展開・戦略の明文化・明確な活動計画
  • ◆財務状況の確認
  • ◆戦略目標,実施計画の見直し
  • ◆活動の評価指標の有無・戦略との整合性
  • ◆国際化戦略の優先度
  • ◆活動,支援内容・国際化への取組み
  • ◆成果目標の達成率
  • ◆特定課題を検討するワーキンググループ数
  • ◆内外のコミュニケーション活動・ネットを活用したプレゼンス向上(英語等使用言語も考慮の対象)・メディア掲載等による認知度
  • ◆成功経験
  • ◆支援組織関係者への満足度調査

BW州の経験から

 本稿では,異分野間連携に向けた自己組織的な取組みへの支援の一環であるBW州のQuality Labelについて紹介した。同認証制度では,支援組織のマネジメント力の強化を目的とした評価項目を提示しているが,戦略や活動計画等の提供する支援サービスに関連する項目に加え,正規職員ベース人員数や資質,財務基盤等のような支援組織の経営資源や体制,プロモーションにおける使用言語も含めた国際化の推進も評価対象として各支援機関に取組みを促していることが特徴的である。実際ドイツでは他州も含め,これら支援組織には各分野の専門家が職員としてフルタイムで勤務し支援サービスを提供する事業体として,自己採算を目指して国内外の活動を展開していることが多い。

 我が国においても同様の支援組織がボトムアップ的な取組みにより設立され活動を展開しているが,地域産業の振興に向けたエコシステムの構築・運用の一環として支援組織の更なる強化に向けた可能性がまだまだ残されているのではないだろうか。

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