世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ドイツの地域産業振興への取組みからみえてきたこと
(中京大学経営学部 教授)
2023.12.25
1.これまでの研究
各地域において産業構造の高度化により競争力の高い新産業を振興し,経済成長の裾野を広げることは我が国の重要課題である。この実現には,個々の事業化への取組みも必要であるが,経済・社会がネットワーク化し複雑化する現代において,より多様な主体が参画し地域をあげてイノベーション力を高めて新産業の振興に取組むことが求められている。したがって,これまでの地方で多く見られた企業城下町的な構造からの根本的なパラダイムシフトが必要と認識し,筆者は参考となる海外の先進的な取組みを調査研究してきた。ドイツでは,1990年代の欧州の病人と言われた時代から復活すべく各地域で新産業の振興を目指し,異分野間連携を通したイノベーションに真正面から取組んできた。筆者は現地調査の結果を本記事に,地域システム,産学による異分野間連携を促進するためのマネジメント,そのマネジメントを推進し異分野間連携を支援する事業体(クラスター組織)に着眼し,それぞれ[No.1264 2019.01.28],[No.2333 2021.11.08],[No.2700 2022.10.03],および[No.1401 2019.07.01]に紹介してきた。
詳細は上記記事を参照していただくとして,今回は一連の調査の総括としてドイツの取組みからみえてきた日本にも有益と思われる示唆について述べることとする。
2.ドイツの調査研究からみえてきたこと
まずオープンイノベーションの重要性がますます高まる現在において,調査研究の対象となったドイツの事例は異分野間連携を通した地域産業の振興に向けて,多様な分野からの多数の参画者がネットワーキングを通して互いの強みを活用しながら自己組織的に新規事業を創出していく試みである。それに対し,地方自治体は産業クラスターへの発展・進化に向けたボトムアップの取組みへの支援を提供している。
そのために,強い競争力と十分な収益を実現する環境を整えるための地域システムとしての仕組みづくりが試行錯誤を重ねながらも,一貫して産学の参画も伴い持続的に地域主導で行われている。これはドイツの各地域において,1990年代より現在の産業クラスター政策につながる施策に取組み続けてきたことから確認できる。また構築された地域体制のもとで,クラスター組織も異分野間連携促進のための支援サービスを産業クラスター振興に向けて持続的に提供している(以上,No.1264参照)。これからも,地域産業クラスター振興への取組みにおいては,各地域が(中央)政府の措置に関わらず,一貫して地域主導で持続的に取組むことが成功へのカギであることを見出すことができる。
さらにクラスター組織に着眼すると,産業クラスターの振興を目的に異分野間連携の促進をコアに支援サービスを提供する地域に根差した事業体として活動している。また,地域の産学官を代表する有力な関係者を巻き込むためにアドバイザリーボードに迎え入れ,そのもとでプロフェッショナルが実行部隊としての役割を担っている。つまり,クラスター組織は支援サービスを提供して収益をあげる事業体であり,雇用契約に基づく報酬を受け取りキャリアの一環として就業した人材が活動しているのである(以上,No.1401参照)。日本における同様の活動では,手弁当で取組んでいることも多い現状を改革するための参考材料となる。
最後に,クラスター組織が提供する支援サービスは,イノベーションによる地域産業の競争力強化,各地域に本拠を置く事業体においてハイレベル人材も含めた雇用機会の増大,および収益機会と経済発展に貢献することを目的に実施されている。したがって,単発的な事業推進のみに着眼するのではなく,多様で多数の人々が集まる場の提供を基盤とした支援サービスを通して関係者間で進むべき方向性を共有し,メンバー間および外部関係者とのネットワーキングを進め,域内外の力を結合した産業クラスターとしての面的な発展につながる持続的な取組みとしてとらえることができる(以上,No.2333およびNo.2700参照)。
これらの日本への示唆を検討するにあたり日独には体制等の違いはあるが,ドイツの各地域ではシリコンバレー等の体制の異なる他国の先例を参考にはしながらも,それぞれのおかれた環境や資源等を踏まえ試行錯誤を重ねて各地域「独自の解決策」を見出してきた。これからも,我が国においても有益な先例は参考にしつつも「地域が主導して,関係する人々を巻き込みながら,持続的に,仕組みづくりも含めた地域独自の解決策を見出し作り上げていくという姿勢と取組み」が最も肝心な示唆であることを確信した。
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川端勇樹
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