世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
幼児教育の無償化について考える
(静岡県立大学国際関係学部 講師)
2019.04.01
2019年10月の消費税増税に合わせて,幼児教育の無償化が実施される。3歳児から5歳児までについては,親の所得に制限はなく全世帯で実施され,0歳児から2歳までは住民税非課税世帯を対象として実施される予定である。この無償化について,さまざまな議論が展開されている。待機児童を増加させるといったような否定的な意見,子育て世帯の負担を軽減させて,少子化対策にもなるというような肯定的な意見の両方が,新聞,テレビなどのマスコミ上で飛び交っている。
おそらく,幼児教育の重要性を否定する人はいないであろう。教育経済学によると,初等教育に就学する前のいわゆる就学前教育が,その後の生活に大きな影響を及ぼすことが分かっている。就学前教育を受けた人は受けなかった人よりも,所得が高く,学歴も高いという実証結果も得られている。この結果となる理由として,よく挙げられるのが非認知能力の向上である。ここで,非認知能力とは,感情をコントロールする能力や人間関係をうまく築く能力のことを指す。この能力を就学前教育で身につけることが,その後の社会的・経済的生活にプラスの影響をもたらすのである。
このように,幼児教育の無償化は,長期的見ると,人的資本の観点から,就学前教育への投資を意味する。そして,その後の生活の基本となる知識・知見の蓄積となり,将来の所得の増加が予想されて,生産性の向上や潜在成長率の向上に寄与する。その意味では,幼児教育の無償化は望ましい政策である。
しかし,短期的にみると,この無償化は待機児童をさらに増加させる懸念がある。待機児童がいるということは,右下がりの需要曲線と右上がりの供給曲線からなる需要・供給分析では,保育の需要が供給を上回る超過需要の状態にある。この場合,無償化は保育の需要曲線を上方へシフトさせて,保育の超過需要をさらに増やして,待機児童を悪化させてしまう。
このように,幼児教育の無償化は,短期的には待機児童の悪化という懸念が予想されるが,政府は適切な対策でそれを乗り越えて,人的資本の蓄積という長期的な利益が得られるようにしてほしい。
関連記事
飯野光浩
-
[No.3608 2024.11.04 ]
-
[No.3510 2024.08.05 ]
-
[No.3396 2024.04.29 ]
最新のコラム
-
New! [No.3810 2025.04.28 ]
-
New! [No.3809 2025.04.28 ]
-
New! [No.3808 2025.04.28 ]
-
New! [No.3807 2025.04.28 ]
-
New! [No.3806 2025.04.28 ]
世界経済評論IMPACT 記事検索
おすすめの本〈 広告 〉
-
百貨店における取引慣行の実態分析:戦前期の返品制と委託型出店契約 本体価格:3,400円+税 2025年3月
文眞堂 -
日本企業論【第2版】:企業社会の経営学 本体価格:2,700円+税 2025年3月
文眞堂 -
カーボンニュートラルの夢と現実:欧州グリーンディールの成果と課題 本体価格:3,000円+税 2025年1月
文眞堂 -
ビジネスとは何だろうか【改訂版】 本体価格:2,500円+税 2025年3月
文眞堂 -
国民の安全を確保する政府の役割はどの程度果たされているか:規制によるリスク削減量の測定―航空の事例― 本体価格:3,500円+税 2025年1月
文眞堂 -
文化×地域×デザインが社会を元気にする 本体価格:2,500円+税 2025年3月
文眞堂 -
ASEAN経済新時代 高まる中国の影響力 本体価格:3,500円+税 2025年1月
文眞堂