世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3813
世界経済評論IMPACT No.3813

日本の消費減税について考える

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2025.05.05

 2025年夏に予定されている参議院選挙に向けて,与党と野党問わず主要各党の公約作りが進んでいる。各種の報道によると,彼らは消費税減税を公約に掲げることを検討しているという。食料価格の高騰に代表される物価高で生活が苦しくなる中,消費税減税を目玉として訴えることで参院選の当選者を増やすという各党の思惑が透けて見える。しかし,生活苦の現状から一歩引いて日本の財政状態を考えると,この公約は無責任である。財源論が置き去りにされているからである。消費税は全額社会保障に充当されており,その税収が減るということは,現在の給付水準を維持するための財源を見つけなければならない。社会保障の将来に不安を感じている人が多いなか,減税のみを叫ぶ政治家が多数いる日本で若者世代が政治に関心が持てないのも当然である。

 このことを厚生労働省と日本財団のアンケート調査結果から確認する。厚労省が2022年に実施した社会保障に関する意識調査報告書によると,今後の社会保障の給付と負担の関係について,総数で見て,「社会保障の給付水準を維持して,少子高齢化による負担増はやむを得ない」が最も多く,32.7%,次いで「社会保障の給付水準を引き上げて,少子高齢化による負担増はやむを得ない」が16.9%である。年齢別で見ても「社会保障の給付水準を維持して,少子高齢化による負担増はやむを得ない」が最も多い。つまり,このアンケート結果から,国民は社会保障の維持のための負担,例えば消費増税を受け入れることを示唆している。

 一方,日本財団が2023年に全国の17歳から19歳の男女に実施した「社会保障」に関する意識調査によると,自身が高齢者になったときに年金制度がどうなっているかに関する質問に,43.8%が「存続はしているとは思うが,維持は難しくなっていると思う」と答え,30.7%が「維持できず,破綻していると思う」と答えている。

 さらに,この調査では,政治・国会への若い世代の意見反映も尋ねており,現在の政治・国会における社会保障制度に関する議論や意思決定に,若い世代の意見が十分に反映されているかという質問に,「あまり反映されているとは思わない」が31.3%,「反映されているとは思わない」が35.3%である。

 この日本財団のアンケートから浮かび上がってくるのは,若者世代はこのままでは将来年金制度が破綻してしまうと考えているが,そのような危機感が十分に政治に反映されていない不満を映している。

 この問題を解決するには,正攻法でアプローチするしかない。つまり,消費税で社会保障を支えなければならない。そのような持続的な社会保障制度には経済成長が不可欠であり,そのためには経済改革が欠かせない。現在の石破政権をはじめ,各党の主張は分配政策ばかりで,分配政策の原資となる経済を大きくさせる政策がほとんどない。パイを大きくしないと分配政策はゼロサムゲームになり,世代間の分断を加速させてしまう。アベノミクスからのやり残しである改革を実行して,潜在成長率を増加させる必要である改革は地味ですぐに効果が感じられないため,政治家の受けは悪いがこれを実行しなければならない。

 もちろん,我々国民もポピュリスト政策に惹きつけられないように,短期的な誘惑を退ける勇気が必要である。アンケート調査のときのように,長期的な視点に立って,冷静で客観的な観点で選挙に臨む必要がある。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3813.html)

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