世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1270
世界経済評論IMPACT No.1270

日中韓FTAと米中貿易戦争

韓 葵花(千葉大学 特別研究員)

石戸 光(千葉大学 教授)

2019.02.04

 交渉の進展が遅いといわれる日中韓FTAの第14回目の交渉会合が2018年12月6日から7日まで二日間,北京で約8カ月ぶりに開催された。日中韓FTAは2013年3月に韓国ソウルで交渉を開始し,その後は第5回目(2014年9月1日)の交渉まで概ね4カ月ごとに交渉会合が行われてきた。第6回目(2014年11月24日)から第10回目(2016年6月27日)の交渉は,それまで約四日間の日数で行われた会合を,局長/局次長会合を五日間で,首席代表会合を二日間で,それぞれ別の時期に分けて行った。ゆえに,交渉会合はそれ以前の約4カ月ごとから,概ね2カ月ごとに一回になり,交渉が活発になったようにみえた。

 ところが,第11回目(2017年1月9日)の会合からは1回目〜5回目と同様な方式に戻り,交渉日数は減り,次の交渉までの時間も長くなった。特に第13回目(2018年3月22日)は約11カ月ぶりに開催されたが,二日間しか開催されなかった。上述の第14回目の外務省報道資料をみると,それまでは議論した内容が明示されてきたが,今回は「日中韓FTA交渉の加速化に合意し,来年の交渉の進み方や,RCEP交渉の進捗を踏まえ,幅広い交渉分野など」について議論したとなっている。交渉会合前の資料では「物品貿易,サービス貿易,投資などの分野」について議論を予定しているとされた。

 中国の商務部は会合の後,次回の交渉会合は東京に決まり,「物品貿易,サービス貿易,投資などの議題に戻り,実質的な交渉を行う」と発表した。中国の報道資料はその他の公表資料とは違い,三分の一の分量で「中日韓自由貿易交渉は中国が行っている最大の経済規模で,我が国の貿易における割合が最高となる交渉である」とし,2018年の5月に,日本での日中韓サミットにおいて日中韓FTA交渉を加速することを約束したことを紹介し,同年の11月に習近平主席が第1回中国国際輸入博覧会の基調演説の時に,更に中日韓FTA交渉を加速化することを提案したことを紹介している。

 一方,韓国の産業通商資源部は会合の前に,日本と同様な内容を発表しながら,通商交渉責任者の話を引用して「最近の保護貿易主義による難しい通商環境の中で,韓中日FTA交渉の重要性がますます大きくなっている」としている。

 ここで米トランプ政権の「自国ファースト」にはじまった貿易摩擦に目を転じると,アメリカは中国をはじめ,日本や韓国,EUなど貿易赤字相手国や地域に赤字解消の対策を求めている。米国は2018年に追加関税を実施し,中国のハイテク製品などに25%の関税を実施した。また追加関税を受けた国は中国をはじめ,日本以外のほとんどの国が米国に対し報復関税を実施している。「米中貿易戦争」という懸念される単語が生まれることになった。2018年12月1日,トランプ大統領と習近平主席の米中首脳会談が行われ,米国は対中の関税率引き上げを90日間凍結することにした。今後行われる協議で解決策が見つかることを期待したいが,米中貿易戦争が米中の二国間を大きく超えて日中韓FTAさらには世界経済に与える影響は大きい。

 特に経済的なサプライチェーンをはじめとした日中韓三カ国の相互依存状況を念頭に置くと,米中貿易戦争への対応もやはり日中韓三カ国共同でなされるべきである。2018年5月の日中韓サミットに続いて10月25日から27日にかけて安倍首相の訪中がなされ,10月26日に開催された第1回日中第三国市場協力フォーラムでは,52件の協力覚書が署名・交換され,経済分野での日中韓の協力は今後さらに強化されることになると思われる。またイノベーション及び知的財産権の協力を議論するために,「日中イノベーション協力対話」の創設で合意した。これらの具体的な経済協力案件が,米中貿易戦争への「対抗策」という意味合いも事実上含まれているとはいえ,日中韓三カ国の政治・経済的関係改善に資することを期待したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1270.html)

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