世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1235

2019年欧州の潮流:リーダー不在で分裂の危機:混迷する政治,大衆の反乱・ポピュリズムのうねり,漂流する改革

田中友義

(駿河台大学 名誉教授)

2018.12.31

 2018年も終わろうとする中,独・仏・英3カ国首脳全てが窮地に追い込まれるなど,欧州政治はますます混迷する情勢下で2019年の新年を迎えようとしている。

 EU離脱(ブレグジット)合意を巡って与党・保守党の中からも激しい反発を受けたうえに,英議会での離脱協定案の承認を得るめどがまったく立たず,八方塞のメイ英首相。反政府デモ「黄色いベスト」運動が激化する中,自らが進めてきた構造改革の見直しを余儀なくされ,改革派のイメージに傷ついて戸惑うマクロン仏大統領。自らの難民・移民路線を否定されたうえ,地方選での連敗の責任をとり,与党キリスト教民主同盟(CDU)党首の座を明け渡し,求心力が急速に弱まって冴えない表情のメルケル独首相。これら3首脳の苦悩する映像が,主要メディアをとおして日々流される。

 2019年3月29日をもって英国はEU離脱するが,それが厳しいながらも「秩序ある離脱」なのか,2008年のリーマン・ショックを上回る大きな混乱を引き起こす「合意なし離脱」になるのか,2019年1月9日から審議が始まる英議会の採決までは,当事者さえもわからない。否決された場合,合意なし離脱か,離脱日の延期通告または離脱の一方的な撤回,あるいは再度の国民投票という選択肢もあろうし,議会解散・総選挙も考えられる。2022年の総選挙前に辞任すると自ら認めたため,早晩「メイ降ろし」が始まって,メイ首相の主導力が急速に低下する。レイム・ダック(死に体)状態に陥った政権下で,政治の混迷が一層強まるだろう。

 リベラル・改革派の急先鋒マクロン大統領の権威は,仏政権を大きく揺さぶる反政府デモ「黄色いベスト」運動によって深刻な打撃を受けており,大統領就任以来果敢に断行してきた成長重視・親企業的な改革推進力が2019年には大きく失墜することになるだろう。2018年末現在の支持率は就任時の60%台から20%台と記録的な下降を示している。「金持ち優先の大統領」というレッテルを張られたマクロン氏の「エリート主義政治」に抗うというより,今やマクロン政治統治を嫌悪する大衆の反政権デモは,急遽発表した一連の低所得層支援策によって,収束に向かうかどうかきわめて不透明である。マクロン氏が反政権運動の鎮静化に手間取るようだと,盤石だとみられていた政権基盤が大きく揺らぎ,政治危機に瀕し,極右・極左のポピュリズム政党の台頭を許すことになろう。

 長年にわたりドイツのみならず欧州を主導してきたメルケル首相の求心力・政治力が急速に低下し,ドイツ政治は「ポスト・メルケル時代」へと移り,2022年までの任期を全うしないだろう。メルケル氏に逆風が吹くきっかけとなったのは,2015年の難民危機である。同氏は「人道的な危機」と捉えて,大幅な難民受け入れを決断したが,ドイツ国内で批判が高まり,極右政党の台頭を招いた。政権が迷走する中,2018年10月の州議会選挙での連敗をきっかけに党首退任に追い込まれた。首相・党首の権力分散,与党CDU内と半数に近い反メルケル派の存在,バイエルン州姉妹政党・キリスト教社会同盟との軋轢など,さまざまな問題を抱え,安定的な政治運営は極めて難しい。

 英国のEU離脱のわずか2カ月後の5月23日から26日には欧州議会選挙が実施される。主流派政党と,極右・極左の移民排斥・EU懐疑派政党との間で衝突が起きるだろう。極右・極左政党の議席が大きく増えて,ポピュリズム勢力がさらに勢いづく可能性が強い。そんな中,牽引役となるはずの独仏のリーダーがともに政治的苦境に陥っているのは痛手である。EUが抱える懸案よりも,国内対策に傾注せざるを得ない状況である。ハンガリー,ポーランド,オーストリア,イタリアなどの政権が反EU的な動きに出ている事態になっているが,メルケル・マクロン両首脳の政治力が弱まり,加盟各国の利害を調整して決断を下すのは困難になる。マクロン氏が提唱してきた「ユーロ圏予算」や「共通財務相」の創設などEU改革もリーダー不在で前に進まずに漂流する。

 ブリュッセル欧州委員会筋では「2019年は,ブレグジット,メルケル退任,反政権運動の高まりやポピュリズムの台頭などの重要な課題に直面するきわめて重要な年になるだろう」と身構える。2019年の欧州は,分裂の危機へと押しやられ,その存在意義に疑念を抱く動きが一段と強まるだろう。

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