世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1205

アクラとアビジャン

久米五郎太

(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科 特任教授)

2018.11.19

 丁度二年前のことだが,ガーナのアクラとコート・ジボワールのアビジャンを駆け足で回った。ネットで往きはKLM,帰りはAFの安いチケットを買った。

 ガーナとコートジボワールは隣国,近年アフリカ諸国のなかでともに経済成長が著しい。カカオ豆では世界第2,第1の生産・輸出国であり,新興の産油国でもある。面積,人口,経済規模,軍事政権統治や債務返済困難の過去も似通っているが,旧英領と旧仏領と植民地時代の歴史は異にする。今政治と経済の分野で注目を浴びる西アフリカの二ヶ国を自分の目で観察し,現地の実業人や学者にも接した旅行であった。

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 アクラへはアムステルダムからの夜行便を使った。何故オランダからか? レンブラントを飾る国立美術館でGus Van Der Ham, Tarnished Gold: Ghana and the Netherlands from 1593という図版の多い図書を見つけた。同書によると,オランダは16世紀末に今のガーナがある黄金海岸で貿易を始め,やがてポルトガルが建てたエルミナ城塞を占拠し,250年以上にわたって西アフリカで金や象牙を買い,繊維を売り,奴隷貿易に従事した。その後1874年にオランダが撤退すると,ガーナは英国領となり1957年にサブサハラアフリカの先頭を切って独立することはよく知られている。オランダやイギリスは南部森林地帯のアカン族のアシャンテイ王国などとも組み,捕虜になった海岸地帯の部族などを南米やカリブ,アメリカに送った。奴隷解放のあと,スリナム,ガイアナやアンチールなどからオランダ国内に移り住んだアフリカ系オランダ人(含むガーナ人)は現在では50万人を越え,多様なオランダ文化を形づくっている。また,昨年米のブックアワードをとったヤー・ジャシ「奇跡の大地」は奴隷の末裔であるガーナ系アメリカ人がガーナに帰郷し,奴隷貿易の時代からの国や一族の歴史を描く小説である。

 アムステルダムは世界最大のカカオ豆の集散地。大混雑のコトカ・アクラ空港でホテルからの迎えの車を待つ間に話したオランダ人はガーナとコートジボワールに加工工場を持ち,カメルーンでもカカオを買い付けているという。日本でも昔からココアといえばオランダのヴァンホーテン社製が有名であった。ナチスの侵略が始まったチェコからユダヤ人の子供達をロンドンに運ぶKinder Transportの映画には,汽車がオランダ領に入ると支援の人達が子供達に暖かいココアを差し入れる場面があった。

 アクラ滞在の最終日はタクシーで海岸に残るかつての奴隷貿易の拠点の見学を考えたが,想像していた以上に遠く,結局大統領官邸や行政機関がある中心部を走って貰い,そこで第一次大戦終戦日(ポピーデー)の募金の垂れ幕に目が行った。ガーナ兵は1世紀前は英連邦軍の一員として戦い,1,000人を越える犠牲者を出した。ガーナはこのところ選挙による大統領の交代が定着し,オバマ前大統領が最初のアフリカ訪問先として選んだ。このアフリカの民主主義のリーダーたる国をよく理解するためには,次回はエンクルマや独立を記念する建物にも行きたい。

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 キガリからのルワンダ航空のエアバスはだいぶ遅れたが,1時間のフライトで到着したアビジャンのフェリックス・ウフエ・ボワニ空港(仏企業が受託管理)では荷物がすぐに出てきて,あっという間に入国できた。アビジャンにはアフリカ開発銀行の本部があり(内戦の時代にはチュニスに移転),パリ駐在の時代に数回訪れた。最後は1994年,CFAフランの50%切り下げの影響を調べに訪れた時以来,ほぼ20年ぶりである。その頃はラグーナの対岸に高層のビジネス街や住宅が並び,近代的で美しかった都会だったが,今や長く続いた内戦により町は荒れ,かなり老朽化した。コートジボワールは独立後の最盛期には,ココアやコーヒーなどの農作物の生産・輸出が好調で,欧米から製造業などにも投資が行われ,同じ経済共同体に加盟するブルキナファソやマリなど内陸の国々から移民が大量に流入した。33年続いたウフェ・ボワニ大統領のあとは,クーデター・軍事政権など政治は混乱し,2002年から二度にわたり,10年間近く内線が続いた。しかし近年では2011年に就任したワタラ大統領の下で同国は政治的な安定を取り戻し(2015年秋に大統領は再選された),IMFなどから国際的な支援を受け,主として公的部門に支えられ,世界的にも非常に高い成長率が続いている(GDP実質成長率は近年の8%台から少し低下するが,2019年まで7%台とIMFは予測)。3本目の橋がPPPで完成,アフリカ開発銀行の本部も戻り,モロッコの協力によるラグーナの埋め立て・再開発工事が動き出し,新しいビジネスビルの建設も進んでいる。一時1万人に減ったというフランス人も増え始め,日本企業は包装工場や販売法人を有する味の素や石油開発に参加する三菱商事の他に伊藤忠,丸紅なども事務所を構えており,都市開発やインフラ分野での開発調査なども進んでおり,今後政治の安定が継続すればビジネスや経済協力も活発化するであろう。

 この国は良港に恵まれないこともあり,ガーナに比べて奴隷貿易による打撃は相対的に少なかったようである。60−70年代の目覚ましい経済開発の成功の要因はフランスとの同化や協力の下で,ココア,コーヒー,カシューナッツなどの農産物の生産者が富を蓄積し,子弟を海外に留学させ,国の近代化に貢献する人材を育成したところにも求められる。そうした点を学生時代に論文に書いたことがある。北部のサバンナはイスラム教徒が多いが,南部の森林地帯にはカトリックが多い(イスラム教徒40%弱,カトリック3分の1,一方ガーナではプロテスタントなどのキリスト教徒70%弱,イスラム教20%弱)。国際結婚をする人も多い。4年前にフランスで観客動員数1200万と大ヒットしたコメデイ映画―Qu’est-ce qu’on a fait au Mon Dieu (邦題は「最高の花婿」としてDVDも発売されている)―は,ロワール地方のフランス人夫婦の4人の娘たちがアラブ,ユダヤ,中国の男と結婚し,最後の娘は相手がカトリックだというので両親は大喜びしたが,実はイボワール人だという設定。ドゴール派の娘の父と植民地主義を批判するイボワール人の父は始めは言い合いをするが,最後は一緒にワインを飲み,肩を組む。

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 人口増加率が高いアフリカは2050年には世界の人口の25%を占め,若者人口の多い国のトップ10がすべてアフリカになると予測されている。アフリカ,特にサブサハラアフリカはまだ世界のGDPや貿易では2−3%のシェアでしかないが,中産階級や都市人口の増加はビジネスの面での機会拡大と捉えられている。さらに,なかなか進まない工業化の促進策,あるいはより広い「エコノミック・トランスフォーメーション(ACET 2017 transformation report参照)」のための経済政策(製造業とサービス業のいずれに注力するか)やICT・ビジネスにかかる教育の分野でも政府が行うべきことは多い。ウエイトが小さな民間部門強化のためには貿易拡大,海外投資受け入れ,ロジステイックス・コスト引き下げなどが必要だと世界銀行は提言する。昨年秋にはガーナとコートジボワールの両国首脳間が,ココアの付加価値引き上げるべく,加工工場建設などに合意した。

 石油や金属など単一の資源への依存度が非常に高く,rentier国家の問題を指摘される国が多いアフリカのなかで,この二か国は多岐にわたる農業資源を有し,教育にも熱心で,製造業やサービス産業の発展の可能性が高く,中規模ではあるがアフリカの経済発展を先導する国である。日本の研究者や開発・ビジネス関係者は,国をよく知るイギリスやフランスの見方も参考に,両国を比較しつつ,アジアの中進国の経済発展プロセスを振り返ることで,アフリカへの理解を深め,効果的な協力やビジネス拡大につなげられるのではないか。

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