世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1151

イノベーションの邪魔者:Buzz Words

鶴岡秀志

(信州大学カーボン科学研究所 特任教授)

2018.09.10

 イノベーションを巡る議論が盛んだが,科学技術がポピュリズムに侵されて衰退している。その1つとして,いわゆるBuzz Wordsが世の中を席巻してリソースを浪費している。東日本大震災後の原発事故の影響で科学への信頼性が凋落したことの影響もあるのだと思うが,技術サイドのイノベーションの出現を邪魔するような,もしくは間違った方向に導くBuzz Wordsが人々の心に染み込み始めている。

 Buzz Wordsの古典的なものは,既に存在する物を別の言葉で,特に横文字で書くことであたかも新アイデアの様を装う手口である。最近は結果が何もでていない文科省がやたらに言い換えを行ってくる。その最たるものは「バックキャスト」である。要するにニーズに合わせて研究計画を立案しろ,というだけなのだが。出口を見据えてバリューチェーンを構築することはビジネスのイロハなのだが,御上からの言葉を有難がって触れ回る人がいるのは興ざめである。ドイツはIndustry 4.0という言葉で第4次産業革命を起こすとキャッチコピーを世界に発信した。日本では「つながる家電」とメディアを挙げて輝く未来を宣伝したが,実際に家の外から冷蔵庫の中を見ることや冷暖房の制御をする人はどれほどいるのだろうか。ビジネスの結果責任を考えたら屍累々の可能性もある。

 一般大衆と企業は徐々に慣れてきて流行語には翻弄されなくなったと見るや,今度は「技術トレンドに乗った」としか思えない「空飛ぶ自動車」を国が推進して行うと発表された。20世紀のはじめ頃から魅力的な乗り物としてSFでは当たり前のガジェットで,必ず「反重力浮揚装置」という技術が使われることになっている。つまり,「落ちない」ことを前提としているのである。たとえ2mの高さでも空中から落ちたら大怪我か死に至るので空飛ぶ車は絶対に落ちてはいけない。しかし,近未来に実用可能になる技術では絶対に落ちないものは絶対に作れない。IT企業とその周辺の人々の感覚と機械の製造に携わる人々の感覚のギャップが広がりつつある。

 メディアの論調は技術開発以上に法整備が重要としているが,法整備も何も,まずまともな乗り物を用意できない。こんなことは,ローカル空港で折り返し便の機体整備を見ていれば容易に推測がつく。航空機は落ちてはいけないので,専門の技術者が機材の点検整備を行い二重三重の確認を行って初めて出発できる。また,空を飛ぶことは天候にも左右されるので安全飛行のための航空管制が重要な要件となる。また,航空機は自動車のように数珠つなぎでは飛べないので単位時間あたりの輸送力は格段に劣る。Uberの作成したアニメーションを放映して「素晴らしいですね」みたいなコメントをするキャスターはラジオの子供電話相談の爪の垢を煎じて飲む必要がある。自動車の交通渋滞を回避する手段として空飛ぶ車を考えているとしたら,あまりにも幼稚ではないか。

 Uberの提案は報道内容を見る限り,米国の多くの主要空港から近隣へ小型飛行機で決められたルートを不定期で飛んでいるエアタクシーを想定していると思われる。このサービスを滑走路無しで離着陸できる機材が登場すれば目的地のそばまで行けるので便利であることは確かである。早速,AirB&Bのことを持ち出して法整備が技術を潰すと言っているコメンテーターがいるが,宿泊予約と航空機材を同一に論じる思考は理解できない。資質を問う必要がある。

 Buzz Wordsは大衆に受け入れられる最終商品または技術のイメージとして使われる。しかし,実現可能な原理原則や基礎技術を伴わない。最近,気になるのはBuzz Wordsなのに大きなプロジェクトとして立ち上げられるケースが増えていることである。再生エネ買い取り計画で太陽光発電を推進したのは良いが,電気料金が上昇するだけではなく環境保全,山林管理に影響が及ぶことが懸念され始めた。さらに,危険物を使用している太陽光パネルの適正廃棄処理は完全に確立されていないので大量廃棄の時期になったら持て余す。巡り巡って経済的損失は大きなものになっていくだろう。民主党政権の無計画ぶりで国土が荒廃する可能性もでているのである。ポピュリズムに迎合するようなBuzz Wordsを止めて地道な技術開発の中からイノベーションへつなげることをすべきである。

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