世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1116
世界経済評論IMPACT No.1116

欧州で都市圏のメトロポリゼーションが一層進行する:地域圏の自治拡大と都市圏の序列関係の崩壊

瀬藤澄彦

(パリクラブ日仏経済フォーラム 議長)

2018.07.23

相次ぐ独立や自治権拡大の動き

 欧州においてはこのところ地域主義運動の高まりが顕著である。そこに次の2つの要求が伴っているとされる。ひとつは民族の言語的,文化的なアイデンティティの追求,もうひとつは経済的成果の共有を拒否する空間的エゴイズムの願望である。欧州統合は2017年3月25日にその出発点となったローマ条約締結から60周年目を迎えたのであるが,2017年は皮肉にも統合とは反対のEU加盟国内部の地域分離独立主義への動きがもっとも高揚を見せる年となってしまった。

 共和制移行を標榜するスペイン・カタロニア州では2017年10月1日の独立の是非を問う住民投票を実施。賛成9割で独立宣言を州議会も可決。ラホイ首相率いる中央政府はこれを不服とし同州自治権停止を発表。しかし同年12月21日の自治州総選挙において事態は沈静化するどころか,独立派政党は絶対多数議席を獲得し,マドリードの中央政府との緊張が一挙に高まりを見せている。バルセロナ都市経済圏の地中海における圧倒的な競争優位がこの背景にある。フランスでは2016年の地方制度改革はフランス本土22の州が13の州に統合再編成されたが,コルシカ州では1975年以来,分裂していたオート・コルシカ県と南コルシカ県の統一を受けて実施された2017年12月の州選挙では自立を掲げるペ・ア・コルシカ(「コルシカのために」)が州議会の56%以上の絶対多数を獲得。今後,真の自立を目指す交渉を中央政府とすると声を上げている。2014年に州民直接投票で一旦は英国よりの離脱と独立の要求を中断したスコットランドでもBREXITをめぐるEUとの交渉との成り行き次第では欧州情勢の変化に合わせて再度,住民投票に向かうとの観測が急速に上がっている。ベルギーでは1993年の連邦制導入以降,北部オランダ語系フランドル州の独立運動が次第に強くなった。同時にかつては優勢であった南部フランス語系ワロン州では4割の州民がフランスへの併合を望むようになった。

 そこまでの主張には至っていないが南ドイツ3州のバイエルン州,ヘッセン州,バーテンベルグ州,フランスのアルザス地方やサボワ地方でも同様の動きがないわけではない。スペインのガリシア州,アンダルシア州,イタリアのシシリア州でも地域自治権拡大要求の声が聞こえてくる。

4つの異なった自治独立の動き

 このような地域自立の運動は次の4つに分類される。第1は国民国家形成に向かう可能性の高い地域である。コルシカ,北アイルランド,スコットランド,ブルターニュ,バスク,カナダ・ケベック州,クルド,旧ユーゴスラビア地域,旧ソ連邦地域,北米インディアン居住地域,などである。第2はとくに文化言語の相違に根差したアイデンティティを掲げて既存の国家から離脱しようとする地域である。ベルギーのフランドル州,デンマークのグリーランド島,スペインのカタロニア州,旧ユーゴスラビアのスロベニア,スペインとフランスのバスク地方,デンマークのフェレオ島,クロアチアのイステリア,フィンランドのオールランド島,南ドイツのバイエルン州等の3州,フランスのアルザス地方やサボア地方もこの部類に入る。第3は現在の国家体制から連邦国家体制に移行する可能性の国として,ベルギー,英国,イタリア,スペインの州地域は中央政府からより連邦制の強い体制に,またイタリア,スペインでは地方分権化が強まり国民国家としての紐帯関係は弱体化していくには必至とみられる。第4は現在は貧困地域であるが遠くない将来に独立の可能が高くなってきた地域として,スペインのガリシア州やアンダルシア州,イタリアのシシリア州,フランスの海外領土県,などを挙げることができる。とくに連邦性国家の内部における不満と動揺がここにきて急速に高まりつつある。

都市経済圏の序列関係の崩壊

 広がりを見せる独立や自治の動きと対応するかのように中核拠点都市とされるいわゆるメトロポール拠点大都市がますます成長を遂げ拡大発展するようになった。これに伴ってこれまでの国内の高所得地域と低所得地域との関係が今グローパル化のなかで中心と周辺というこれまでの国内的な都市経済圏の序列関係の崩壊となって現われつつある。メトロポール都市に集積する多国籍企業は世界的な競争優位のポジションを築くためにその経済産業活動をグローバルに分散させることが不可欠となった。ポール・クルーグマンは価値連鎖を上流部門から下流部門まで世界的な地理空間のうえで4つの競争優位の条件を整備できるかによって都市の競争優位が決定されるようになったとした。これらの都市経済圏の多国籍企業は業務の外部化,内部化と提携ネットワーキングによってグローバルな価値連鎖の最適配置条件を模索している。さらにグローバル競争における需給,技術,経済空間,法規則についてダイヤモンドモデルと言われる4つに決定因子を満たすことが求められている。

 さらに詳細に見ていくとグローバル都市競争時代が加速するなかで,中核拠点都市たるメトロポールはその世界都市形成にあたり,工場の設置を目指した立地ではなく,地域本社や統括本社を志向した空間となることを目標に掲げるようになった。このことは米国のステファンン・ハイマーなどが多国籍企業論のなかで論じており,「多国籍企業を分析する単位としては国家よりも都市の方に意味がある」という見解を示していた。彼によれば企業立地は3段階を経て世界的な多国籍企業に成長する。まず第3番目の段階としては労働力,市場,原材料といった立地因子に規定されて全世界的に価値連鎖が拡散する。次に第2段階になると現業部門型の組織から高学歴のホワイト・カラーや高度な情報獲得のために次第に世界的な大都市に地域本社として立地するようになる。そして第1段階になるとグローバル化の進展に合わせて世界的なガバナンスを意識したコーポレート・ファイナンスを可能にする資本市場や高度なハイテク通信を介する情報メディア,そしてグローバル戦略展開に必須の政府などへのアクセスが重視される。価値連鎖の上流部門と下流部門の頭脳に相当する業務活動を集中的に立地することによってここに「グローバル・シティ」,世界的な中核拠点メトロポール都市が形成されることになるというのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1116.html)

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