世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「外国企業であることの不利」について考えてみる
(上智大学経済学部 教授)
2017.10.30
海外進出を試みる企業は,現地企業と比べて不利な立場にあり,その不利を克服するだけの優位性を持つ必要がある。この主張は「至極単純な主張」でありながらも,国際経営研究者の関心を長く集めてきた。議論は大きく分けると2つの方向へと発展を見せており,1つは不利を克服する優位性の議論へと展開を見せ,もう1つは不利そのものの議論として発展をみせている。
なぜ外国企業が不利な立場に置かれるのかを考える上でのカギの1つは,本国からの距離の問題である。本国から距離の離れた市場へ進出すれば,さまざまな違いに直面する。まず言語が異なるかもしれない。この問題は日本企業においては顕著であろう。また,消費者の嗜好も異なるかもしれないし,行動様式などの文化面で異なるかもしれない。こうした違いへ対応することは,外国企業へ追加的な費用を科すことになる。さらに,その不慣れな環境に対応しようとしたときに,本国との距離が離れていれば,本国と現地の間でコミュニケーションの問題が発生することもあるだろう。
このように考えると,距離の離れた市場へ進出すればするほど,外国企業は現地市場において不利な立場に置かれることになる。もしこの考え方が正しいとすると,導かれる示唆の1つは,距離の近い市場に進出しなさいということになる。空間的距離に限らず,文化的距離や制度的距離の点において,本国から近い市場への進出が推奨される。
Rugman and Verbeke(2004)は,日本企業であればアジアをホーム地域,アメリカ企業であれば北米をホーム地域とした上で,ホーム地域に依存せず世界中で満遍なく売上を上げている企業を「真のグローバル企業」と定義して上で,「真のグローバル企業」の特定を行った。その結果は,衝撃的なものであった。彼らの調査によれば,「真のグローバル企業」は世界に9社しか存在しなかったのである。つまり,ホーム地域から距離の離れた地域では,不利な立場におかれていたのである。
こうした主張のベースには,距離は与件である,という考え方がある。しかし,1つの疑問が生まれてくる。果たして距離を縮めることはできないのだろうか。外国企業であることの不利は変わらないのだろうか。Zaheer and Mosakowski(1997)は,外資系トレーディングルームと現地のトレーディングルームの生存率の比較を行っている。その結果,外資系企業の生存率と現地企業の生存率の差は現地市場への進出後9年で最大となるものの,進出後16年経過する頃には差がなくなっていることを発見している。つまり,経験とともに外国企業であることの不利は低下していたのである。
従来,暗黙裡に距離は外生的なものとして捉えられてきた。しかし,外国企業であることの不利,さらには距離は変えられるかもしれないのである。その際にカギとなるのが,国際市場での経験の積み方である。国際市場における経験の積み方次第で,距離は長くもなれば短くもなるのである。つまり,距離はもはや外生的なものではなく,内生的なものなのである。
[参考文献]
- Johanson, J. and Vahlne, J.-E., “The Internationalization Process of the Firm: A Model of Knowledge Development and Increasing Foreign Market Commitments,” Journal of International Business Studies, 8(1): 22-32, 1977.
- Rugman, A. M. and Verbeke, A., “A Perspective on Regional and Global Strategies of Multinatinal Enterprises,” Journal of International Business, 35(1): 3-18, 2004.
- Zaheer, S. and Mosakowski, M., “The Dynamics of the Liability of Foreignness: A Global Study of Survival in Financial Services”, Strategic Management Journal, 18(6): 439-463, 1997.
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