世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.936

現在の格差(不平等)問題と国際経済の変化

宮川典之

(岐阜聖徳学園大学教育学部 教授)

2017.10.23

 このところ,格差もしくは不平等問題に向けてのアプローチが盛んにおこなわれている。この問題について世の中の関心を引き寄せるきっかけを与えたのは,フランスの経済学者トマ・ピケティによって書かれた『21世紀の資本』(邦訳 2014)であろう。ピケティはこの本の中で,このままの状態で世の中が推移すると,主要国内の経済格差はちょうど19世紀初期の北西ヨーロッパに見られたような格差現象が再現することになるだろうこと,および1950年代から1970年代までに見られた主要国内の相対的平等化時代は歴史上たいへん稀有なものであることなどについて論じた。前者のばあい,資本収益率のほうが所得成長率よりも大きいような状態が恒久的に続くかもしれないことを意味していて,後者はとくに日本についていえば,昭和30年代から昭和50年ぐらいまでがその時期であり,国民の大部分が高度経済成長を実感し,実質的に完全雇用が確保されていた時期であった。当時学生運動は盛んであったけれど,多くの国民は生活水準が向上したため前向きにものごとを考えることができた。ところがその後,事態は一変する。すなわち不安定の度合いがどんどん強くなっていく。それが格差もしくは不平等となって現出することとなったのだ。そのようになっていった最大の要因は何かと問うならば,管見によれば,資本の野放図な自由化に求められるのではなかろうか。金融分野のイノヴェーションがそれに拍車をかけた。金融派生商品いわゆるデリバティヴの発明およびその運用がそれである。ヘッジファンドなどIT革命を背景に,それはグローバルな次元で運用された。

 こうした事情が国際経済にどのような影響をおよぼしたかについて,次に考えてみよう。ピケティによって説明された事情は,主要国つまり先進国内の経済事情にほかならない。つまり国際経済学でいうところの南北格差ではない。どういうことかというと,学界関係者の関心が,国際経済面の格差よりもむしろ先進国内の格差問題のほうへ移っていったということなのである。ピケティに続いてアトキンソンの『21世紀の不平等』(邦訳 2015)が読まれ,そしていまではミラノヴィッチの『不平等――エレファントカーブが予測する未来――』(邦訳 2017)が読まれている。そしてあのスティグリッツは,アメリカ国内の格差問題の深刻さについて警鐘を鳴らし続けている。ピケティの出現を機に,このように世の中の関心のトレンドが変容したことが重要である。さらには格差を測る指標としてジニ係数からパルマ比率(上位10%の所得層が得ている所得と下位40%の所得の比率)へ,貧困の尺度も絶対的貧困率から相対的貧困率へと重点がシフトしようとしている。筆者は,2015年に潮目が変わったと捉えている。なぜなら2015年の国連総会において,持続可能な開発目標(SDGs)が合意され,問題解決の矛先が先進国内の格差解消のほうへ向けられることとなったからだ。

 それだけではない。国際経済面においても,2015年に潮目は変わった。それは何かというと,中国経済の成長が停滞期に入ってしまったことだ。中国経済の成長鈍化の影響をダイレクトに受けたのは,ラテンアメリカ地域である。それはどのような形で現われたかというと,一次産品に対する需要の減少によってもたらされた。最も象徴的なのが鉄鉱石に対する需要である。インフラ投資や企業の設備投資に見られる建造物の建設から派生する鉄鉱石に対する需要がまず考えられるが,それが完全に停滞してしまった。同様に鉱物資源一般に対する需要が停滞した。エネルギー資源に対する需要も同様である。

 かくしてグローバルな次元での有効需要喚起という視点からみて,アメリカとの覇権国家争いという政治的思惑についてはさておき,中国が進めようとしている「一帯一路」政策やアジアインフラ投資銀行(AIIB)の運営などに対して,一定の評価をする必要があるのかもしれない。

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