世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3969
世界経済評論IMPACT No.3969

構造学派と従属学派との違いについて:フルタードとカルドーゾの立ち位置を考える

宮川典之

(岐阜聖徳学園大学 教授)

2025.08.25

 このところ上の論題に関連する書籍が連続的に刊行された(エドゥアルド・ガレアーノ著『収奪された大地――ラテンアメリカ500年――』[新装新版],大久保光夫訳,藤原書店;ディエゴ・サンチェス=アンコチュア著『不平等のコスト――ラテンアメリカから世界への教訓と警告――』谷洋之・内山直子訳,東京外国語大学出版会)ので,本コラムでは見出しの問題について考えてみたい。なお論者によっては,前者を後者に包摂してしまい関連する研究者をすべて従属論として捉えて議論する向きもあるので,そのような誤解を解消することもここでは視野に入れて論じることとする。

 まずは構造学派についてだが,研究者の出自によって途上国系と先進国系とに大別される。代表的人物を挙げると,途上国系にはラウル・プレビッシュ,アーサー・ルイス,ラグナー・ヌルクセ,オズヴァルド・スンケル,アントニオ・オカンポ,エドマー・バーシャおよびコドゥリナ・ラダらがいる。それに対して先進国出自にはポール・ローゼンスタイン-ロダン,グンナー・ミュルダール,フランソワ・ペルー,ダドリー・シアーズ,ハンス・シンガー,ホリス・チェネリー,ランス・テイラーらがいる。このうち新構造学派として類型化されるのはスンケル,オカンポ,ラダ,バーシャおよびランス・テイラーである。もうひとりアルバート・ハーシュマンの存在も重要だが,構造学派としてよりもむしろ開発論のパイオニアとして位置づけたほうが妥当だろう。

 次に従属学派には,アンドレ・グンター・フランク,アリギ・エマヌエル,イマヌエル・ウォーラーステイン,サミール・アミン,およびジュヴァンニ・アリギらがいる。

 そして微妙な立ち位置になるのが,セルソ・フルタードとフェルナンド・エンリケ・カルドーゾである。おそらく従来のカテゴライズの仕方にしたがえば,この二人は従属学派に属するものとされた。ところで筆者は,構造学派にカテゴライズされてしかるべきであると考える。二人ともブラジル出身であり,フルタードは経済学者でありカルドーゾは社会学者である。そして二人とも,プレビッシュを中心に創設された国連ラテンアメリカ経済委員会(スペイン語の頭文字ではCEPAL,英語のそれはECLAであり,1980年代半ばにカリブ海域も含むECLACとして発展的に改称)にて学者としてのキャリアを積んだ。やがてラテンアメリカ地域の専門家として欧米にも知られるようになった。フルタードはイェール大学やパリ大学(ソルボンヌ)にて,カルドーゾはサンパウロ大学と第9パリ大学でそれぞれ教鞭をとり,二人ともブラジルの政治にもかかわり,各種大臣を歴任し,カルドーゾは1995―2002年に大統領を務めた。フルタードはプレビッシュより20歳年少であり,カルドーゾは30歳年少である。

 プレビッシュが構造学派として果たした歴史的役割は,中心・周辺論の定式化,一次産品対工業製品交易条件の長期的悪化傾向命題の提示,周辺国に輸入代替工業化戦略の勧告,およびECLAと国連貿易開発会議(UNCTAD)の事務局長として実務家として手腕を発揮したことなどだ。フルタードとカルドーゾはプレビッシュの周辺国経済の構造認識に歴史性の意味を持たせて,理論的思想的に発展させた。周辺国経済の二重構造的性質については,ルイスの余剰労働移動説が説得力を有するが,フルタードはそれをハイブリッド構造として捉えた。その構造が歴史的に深化したことが低開発性の本質であると措定した。カルドーゾは主著(エンソ・ファレットとの共著『ラテンアメリカにおける従属と発展』1969)の中で,中心・周辺論の枠組みを堅持しつつ多国籍企業の周辺国における行動について,従属学派のような排他的立場をとるものではないと明言している。かれの実務家(財務相)としての実績は,1993年のインフレ抑制策としての「レアル・プラン」の成功に見ることができる。また社会学の視点から,周辺国における近代的部門と伝統的部門との併存の二重構造論を展開している。ラテンアメリカを代表する研究者クリストバル・カイは,構造学派と従属学派との違いは二重経済構造を認めるかどうかが分岐点であるとしている。その意味において,カルドーゾは従属論を研究対象にしていたとしても,フルタードと同様にかれの立ち位置は構造主義なのである。

 現在のブラジル大統領ルーラは前任のカルドーゾを引き継ぐ形で2003―2011年の任期を務め,さらに2023年の大統領選で再選された。時あたかもコモディティ・スーパーサイクルが訪れて幸運に恵まれ,最初の任期に所得再分配政策など社会政策が効果を上げた。かれの基本姿勢は今なお政府主導型のカルドーゾ路線を踏襲していることは確かであろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3969.html)

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