世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.914
世界経済評論IMPACT No.914

「一帯一路」構想に日本の国際開発協力の知見を:上海社会科学院研究者が「福田ドクトリン」注目

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2017.09.18

 日本と中国の政治的な定期対話の枠組みの一つに,日中与党交流協議会がある。その第6回会合が8月7〜9日に東京と仙台市内で開催された。日本での開催は8年半振りで,日本側は自民党二偕俊博幹事長と公明党井上義久幹事長,中国側は中国共産党の宋濤中央対外連絡部(中連部)長らが出席し,45年前の日中国交正常化の初心を忘れず両国関係の改善と進展に向けた話し合いが行われた。その共同提言が仙台市内で最終日に発表され,その中で中国の巨大経済圏「一帯一路」構想への具体的な協力について積極的に検討するとされた。仙台市は,文豪で偉大な思想家の魯迅が旧仙台医専(現東北大学医学部)に学んだと中国では知られており,また吉林省長春市(旧満州国新京市)との友好都市の交流が盛んで,注目されるニュースとなった。

 同構想は現代版シルクロード構想として習近平国家主席が2013年に提唱し,今年5月14〜15日に北京市で初の「一帯一路」国際フォーラムを主催した。そこには130以上の国や国際機関から約1,500人が参加したものの,首脳の参加は29カ国にとどまった。首脳が参加したアジア主要国ではインドが参加要請をボイコットし,G7首脳はイタリアのみ参加で,日本と米国は代表団の派遣にとどまった。インドは,同構想の旗艦案件ともいわれるCPEC(中国パキスタン経済回廊)が一部国土を侵害していると反発し,多くの国は同構想が米国のアジア重視政策やTPP構想に対抗する中国主導のもので,最近目立つ中国の海洋進出等覇権主義の動きや経済的な影響力増大への警戒感が働いたと見られる。これは5月22日付インパクト弊稿No.845にも述べたが,ここではJETRO通商弘報で現地から報告された国際フォーラムに対するアジア諸国の反応を見る。

 アジア諸国では,インドを除くほとんどの国の政府や経済界が,同構想は国内開発のネックとなっているインフラ整備が進み,中国や外国とのコネクトビリティが改善しビジネス機会が増えると期待している。しかしながら,現実のプロジェクトを見ると,中国の開発資金融資とともに中国企業が進出し,中国人労働者の派遣,中国からの機材や資材の輸入等,いわば丸抱えあるいは紐付き支援になっていると不満や警戒が根強い。負担能力を超えた過大融資の返済で財政のひっ迫,中国からの輸入増で貿易赤字の拡大等,環境への配慮が欠け住民とのトラブルを抱える例も少なくない。CPECは,当面のパキスタン経済の成長にかなり寄与している反面,貿易赤字の増大が懸念され,隣国インドとの関係改善には影を落としている。中国のいうWIN-WINの互恵関係の実態がなかなか見えてこない。

 このように,「一帯一路」構想は多くのアジア諸国が期待しつつも懸念を抱き,一部には新帝国主義とも揶揄される側面を否定できず,このままでは持続可能ではなく改革を避けられないであろう。同構想を支えるAIIB(アジアインフラ投資銀行)は中国主導であるが,これまでの融資プロジェクトの多くは世銀やADB(アジア開発銀行)との協調融資であり,その場合は国際的な融資ルールが適用され透明性や公平性は確保されていると考えられる。AIIB加盟国は既に80カ国にのぼったとされADB加盟国を上回るが,これまでの国際開発金融を支え中国も加盟を働き掛けている日本と米国はまだ未加盟である。

 こうした中で,中国国内でも現行の政策を見直し「一帯一路」構想に繋げようとする動きがあるようだ(注)。例えば,中国の政府系シンクタンクの上海社会科学院の傳釣文研究員は,1977年に発表された「福田ドクトリン」に注目している。日本は第2次大戦時の記憶が残る74年に東南アジアで反日デモを経験し,「心と心の触れ合う」相互信頼関係を築いて東南アジアの和平と繁栄に寄与する外交政策を表明した。以降対日感情は好転し,世界最大手のODA供与や企業活動が国際開発協力として評価されるようになり,その知見や経験は大いに参考になろう。

 中国は世界最大の経済大国となろうとしている今,それにふさわしい内外政策の変革を求められている。多くの国が期待しつつ懸念する「一帯一路」構想の変革は不可避と目され,先例の知見や経験に学び出来ることから始めるという意味では,このたびの日中与党交流協議会の話し合いに関心を持った。数年前に民間交流の一環で北京の中連部を訪れ,仙台で若干係った日中東北間交流の議論を交えた経験がある。昨今の日中関係には,国内外政治の建前やメンツに縛られがちなトップ会談だけでなく,お互いに率直な意見を交換し易い「場」が必要であり,日中与党交流協議会がその先駆けになるよう期待したい。(8月30日記)

[注]視線『「一帯一路」は「福田ドクトリン」から学べ』上海支局長河崎真澄,産経新聞(2017年7月3日付)

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article914.html)

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