世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.882

残された大市場であるインドへの挑戦

福田佳之

((株)東レ経営研究所 シニアエコノミスト)

2017.07.24

 近年インドに進出する多国籍企業が増えており,その勢いはかつての中国進出のペースをしのぐと言ってよい。インド経済について有識者ヒアリング等をする中で企業のインド進出という視点でいくつかのポイントに気が付いた。

 まず,インドの人口が増え続けているということだ。インドは2015年時点で既に13.1億人と中国に次いで第2位の人口大国である。国連によると,これからも人口は増え続けるとしており,2022年には中国を追い抜き,2070年には17.5億人に達する。また15歳から64歳までの生産年齢人口を見ても既にピークを迎えた中国と異なってインドは増加を続け,2050年には11億人を突破する見込みである。インドの人口ピラミッドは正三角形だが,現在15歳未満の若年層の出生率の伸びが抑えられている。人口全体に占める生産年齢人口シェアが上昇して高い経済成長が期待できる「人口ボーナス」の恩恵が享受できる状況になりつつある。

中国に10-15年遅れの経済成長

 第2点として,インド経済は長年にわたって着実に成長を続けてきた点である。1991年にインドは経済自由化に踏み切ったが,そのペースは決して速くはない。またこの四半世紀の間にインド国民会議派とインド人民党等の間で3度の政権交代が行われた。にもかかわらず,この間平均すると6%後半の成長率でインド経済は拡大してきた。2010年前後には下位中所得国(国民所得1,000ドル)の仲間入りを果たしている。おそらく今後10年から15年程度で現在の中国の所得水準に到達して,2030年頃には米国や中国に次ぐ経済大国が生まれることになる。ユーロモニターによると,2030には年間世帯可処分所得が5,000〜15,000ドルの下位中間層が全世帯の半分を占め,同所得が15,000〜35,000ドルの上位中間層が26%を占めるという。これは現在の中国の中間層が占める割合と同じである。またエアコンや自動車などの大型の耐久消費財について2010年代後半から20年代後半にかけて普及期に入るとされ,いずれ大型消費ブームが到来するだろう。

インド市場攻略には複数拠点進出が不可欠

 第3点として,国土全体にわたって経済成長を広く実現しているということだ。もちろんインドのどの地域も一様に高い経済成長をしているというわけではなく,成長が緩やかな地域も存在する。だが「北部は栄えているが,南部はまだまだ」とか「沿海部は先進国並みだが,内陸部はこれから」などと言われることが多い新興国と比べると,インドは北部も南部も国土全体にわたって経済成長していて,取り残された地域が少ない印象がある。

 一方,インド国内の交通網や電力などのインフラ整備は進んでいるかと言えば,依然として問題を抱えている。もともと広大な国土を持つ国であり,一定以上の交通や電力・水道などの公共サービスを提供するには相当規模の資本を投下してインフラ整備を続ける必要がある。しかし,インドの中央・地方政府の厳しい財政事情,厳しい気候(特に雨季),インド国民のメンテナンス等への意識の弱さ等を考慮すると,そう簡単な話ではなく,早急に解決できる見込みが立っていない。

 国土が広く高成長地域がいくつも存在することや,交通などのインフラの整備が進まず,例えば生産拠点を集中配置してそこからインド市場全体を攻略することに無理があることを考慮すると,進出企業はインドの複数の地域に事業拠点をそれぞれ置かねばなるまい。

 インドは日本企業が戦略的に取り組むことができる残された大市場である。2016年10月時点でインドに進出した日本企業は1,300社を超えている(ジェトロ調べ)が,今後も日本を始めとした多国籍企業はインドのポテンシャルに魅力を感じ,複数地域への進出を実行に移していくだろう。

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