世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.828

次期日本銀行総裁について考える

榎本裕洋

(丸紅経済研究所 シニアエコノミスト)

2017.04.17

 「日銀が今後購入可能な国債の残高」とかけて「日銀・黒田総裁の任期」と解く。そのこころは「どちらも残りわずか」。

 下手な謎かけで茶化してしまったが,いずれも日本経済にとって切実な問題である。黒田総裁は2013年の就任以降,市場の期待を上回る異次元緩和,いわゆる黒田バズーカ第1弾・第2弾の副産物として円安環境をもたらし,日本経済の「時間稼ぎ」に大きく貢献した(「時間稼ぎ」としたのは,金融政策の役割は緩和的な金融環境をつくって経済に一息つかせることだからだ。稼いだ時間を使って潜在成長率を押し上げるのは政府や民間企業の仕事である)。筆者は最近まである経済団体に出向していたが,そこで出会う経営者の多くも,黒田バズーカを高く評価していたように感じた。一方,2016年1月に導入が決定されたいわゆるマイナス金利政策については経営者から批判が相次いだが,その批判の矛先は(日銀当座預金の一部に賦課された)マイナス金利そのものよりも,日銀の予想に反して長期金利が急低下したことによるイールドカーブのフラット化とそれに伴う運用利鞘の縮小に向けられていた。実際,これらの批判を受けて,2016年9月に日銀が長期金利を相対的に高めに誘導(目標は0%)することを決定すると,(日銀当座預金の一部に賦課された)マイナス金利はそのままであるにもかかわらず,批判はぴたりと止んだ。同時に長期国債買入れペースについては,従来の年間80兆円を「めど」に格下げすることで,いわゆる「長期国債買入れの限界」に柔軟に対処する姿勢を見せた。

 このように多くの功績を残した黒田総裁だが,その任期もあと1年だ。黒田総裁再任説も含め様々な憶測があるが,筆者はバーナンキ元FRB議長のような高い資質を持った人材がグローバルな人材プールから次期日銀総裁に登用されることを期待している(同時にその可能性が極めて低いことも理解している)。日本銀行法を見る限り,外国人が日銀総裁になることを妨げるルールはないようだ。むしろ世界では,カナダ銀行総裁を務めたカーニー氏がイングランド銀行総裁に就任したり,イスラエル銀行総裁を務めたフィッシャー氏がFRB副議長に就任したりと,中銀幹部人事はボーダーレス化しつつある。

 筆者がバーナンキ氏のような人材に期待することは3つある。第1に学識と経験だ。日本の金融政策の先行きは予断を許さないが,国債買入れの限界を考えれば,日銀は物価上昇基調を確認しながら,徐々に買入れペースの減速,いわゆるテーパーリングに向かう可能性が高まっている。この際,例えばFRBでリーマンショックとその後の超金融緩和,さらにそのテーパーリングまでを経験したバーナンキ氏のような人材がいれば,その学識・経験は日本でも大いに活用すべきだ。第2に人脈だ。バーナンキ氏は共和党・民主党両政権下でFRB議長を務めており,党派を超えて豊富な人脈を有している。トランプ大統領は日本の金融政策にも“口撃”を加えているが,バーナンキ氏と同等の人脈を有する人物が日銀総裁であれば,トランプ大統領も口撃の“口”を緩めるのではないだろうか。第3に経験の共有だ。日本が経験している低インフレ・デフレ状態は,似たような発展過程を辿る韓国などのアジア諸国も将来経験する可能性が高い。その際に,日本の経験を日本人が日本語で独占するのではなく,バーナンキ氏のような国際人を巻き込むことで,国際語である英語を通じて世界と共有できよう。同時にバーナンキ氏並の学識・経験を有する総裁と働くことで,日銀にも世界最先端の金融政策運営というかけがえのない財産がもたらされるだろう。

 民間企業と同じく,中央銀行もグローバルな人材プールからより優れた人材を登用してよい時代なのだ。

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