世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
連合政治の理論と実際:欧州の実情と日米
(国際貿易投資研究所(ITI)客員 研究員・元帝京大学経済学部大学院 教授)
2026.03.16
「政党連携・連合政権(coalition government)」は,欧州では日常的かつ標準的な統治形態である。日本でも最近の総選挙で中道改革連合や政党間協定などが登場している。今後の政治道動向を見るうえで重要なテーマである。以下,欧米諸国との比較実例,日本との比較を考察する。
なぜ欧州では頻繁に連合政権が生まれるのか。第1に政治学的に連合政権は「比例代表制」と「多党制」の帰結である場合が多い。欧州では,欧州議会を筆頭にドイツ,イタリアなど選挙制度として比例代表制を採用する場合が多く,小選挙区制が弱い。この結果,多様な小党が生き残りやすく,単独過半数を取れる政党がほぼ出ないことから連立の形成が必然となってくる。第2に理論モデルの代表的枠組である「最小勝利連合」(Riker理論)(注1)を過半数ギリギリで組んで合理的に閣僚ポストを分け合うため,無駄に政党を連合に招じない傾向がある。第3に政策距離モデルで,これは「政策が近い党同士で組む」というケースである。第4に左派対中道派のケースが多いが,その理由は事務分担モデルの「得意分野で役割分担」となる。例えば(経済=右派)対(福祉=左派)などだ。民主主義の理論上の意味に照らして考えると,連合政権は多様な民意を反映,合意形成を重視する。しかし決定が遅く,責任が曖昧な「合意民主主義(consensus democracy)」型とも呼ばれる。これは英米型の多数決民主主義と対照的である。
連合政権の欧州の代表的実例を見て行くと,いくつかの類型に分類できる。まずドイツは「安定型連立モデル」と言われ,メルケル時代の大連立政権で,保守政党のキリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会同盟(CSU)と社会民主党の3党連立は,対立政党同士であっても「国家安定」を優先することでは共通していた。その特徴は政策協定書が数百ページにも及び,任期4年間の言わば“契約政治”であったことである。次は「多党妥協モデル」と言われるオランダの事例だ。現NATO事務総長であるマルク・ルッテ首相の時(第1次2010年~第4次2024年)は常に3〜4党による連立政権であった。超現実的・実務型政治に徹するため,政権内の交渉に半年もかかることが多いのが特徴である。イタリアは「危機対応型連立モデル」と言われ,欧州中銀総裁だったマリオ・ドラギ首相内閣(2021–22年)は,左右・ポピュリスト混合の“挙国一致”と言われたほどであった。特徴として危機時の“テクノクラート型連立”であり,EU主導型改革であった。スペインは社会労働党と急進左派の連立による首相ペドロ・サンチェスの「左派連合モデル」であり,その特徴はイデオロギー連立を志向した社会政策重視型である。
以上のような連合政権を欧州型モデルと呼んでいいであろう。即ち,①安定志向型の中道政党同士のドイツ,②多党妥協型で多数小党同士のオランダ,③危機管理型で国民的な戦略的党派的な同士のイタリア,④イデオロギー連立を志向した社会政策重視型のスペインの4つである。フランスは本来「単独政権型」であったが,近年は事実上の連立化のプロセスに入ったような印象を与える。フランスではマクロン大統領主導の中道主義政党を軸にした連立政権が政治的に分断化する議会のなかで,野党との間で部分的な連携をするような局面が多くなってきた。これは言うなれば「非公式連合政権モデル」となづけていいものである。マクロンの中道主義政党・前進「en même temps」もこれに当てはまる。
2026年現在の欧州政治は,オランダの政治学者ハンス・スロンプ(Hans Slonp)が示した「政策可能領域のスペクトル(曲線)」(注2)における公共財や政策目標の最大化と機会費用の観点おいてもいくつかの大きな変化が見られる。まず右派ポピュリズムの躍進である。ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」やフランスの国民運動(RN)動向に見られるように,従来の「中道右派」からさらに外側の「極右・懐疑派」へと勢力が拡大移動しており,スペクトルの右端かつ反EUの領域が広くなっている。次に中道派の再編で,伝統的な中道右派EPP(欧州人民党)など)や中道左派の支持が揺らぎ,リベラル中道(欧州刷新など)との境界線が流動化している。そして「左派」の変容がある。スペインの左派政権のように,右傾化に対抗してより進歩的な政策を強調する勢力も存在し,経済軸と社会自由主義軸がより密接になる動きもある。スロンプの図は,これら多岐にわたる政党(キリスト教民主主義,社会民主主義,自由主義,緑の党,極右,極左など)の立ち位置を一目で理解するための,欧州政治研究における標準的なフレームワークとなっている。
こういう欧州諸国の政党政治の動きと日本の政党政治との決定的違いは何か。日本の連立(自民・維新,立憲・公明など)は,まず制度的には必然性がなく政策交渉プロセスも不透明であることが連立の政治的姿勢を曖昧なものにしていると言える。欧州では制度が連立を強制しており,その連立交渉が公開の場で行われ,さらに文書化された枠組みである。換言すれば,欧州の「制度化された連立」対日本の「便宜的非公式連立」の違いがあると言うことができよう。
翻って,連合政権とは,多党制民主主義における権力の分割と合意の形成の制度化形態であると定義することができる。これは3つの機能,①民意の統合,②政策の調整,③政治の安定が得られる代わりにその代償として迅速性の低下,責任の希薄化が表面化する。連合政権はまさに現代政治の“妥協の制度化”であり,理想と現実の折衷である。しかし同時に現実の政治の「悲劇性」を制度的に象徴している。
[注]
- (1)政治連立理論(The theory o Political Coalition)にゲームの理論を援用,勝利の最小限の票・議席を確保しようとする合理的選択の重要性を米国のWilliam H.Rikerが提唱。得票最大化を目指すとするA,Downsとの論争がある。
- (2)Hans Slonpの政治スペクトル図によって欧州の政党を以下の3つの主要な対立軸に基づいて分類することが一般的である。①経済軸(左派 vs 右派):左派(Left)の国家による介入,社会保障の充実,富の再分配を重視。右派(Right)の自由市場,減税,規制緩和を重視。②権威・自由軸(リベラル vs 保守)において個人の自由,多文化主義,世俗主義を重視する層と,伝統的価値観,秩序,国家主権を重視する層の対立。③欧州統合軸(親EU vs 懐疑派):EUによる統合深化を支持するか,国民国家の権限維持を主張するかの対立。
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