世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
タイにおける汚職:汚職認識指数,政府・民間の対応,選管
(元亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)
2026.03.02
汚職認識指数
2月10日,ドイツに本部を置く,世界有数のNGO組織「トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)」が2025年の汚職認識指数(CPI,182か国が対象)を発表した。タイは116位(前年比9ランクダウン)で,スコア(満点は100)は33,全体の平均である42を大幅に下回った。過去19年間でスコアは最低,近年のピークであった2022年の36(101位)から,35(108位),34(107位),33(116位)と悪化の一途をたどっている。東南アジアでは,シンガポール(3位),ブルネイ(31位),マレーシア(54位),東ティモール(73位),ベトナム(81位),インドネシア(109位),ラオス(109位)に次いで8位,下には,フィリピン(120位),カンボジア(163位),ミャンマー(169位)しかいない。前年は東南アジアで5位だった。TIは,汚職を「私的利益のための,委託された権力の乱用」と定義している。また,TIは「汚職は信頼を蝕み,民主主義を弱体化させ,経済発展を妨げ,さらに,不平等,貧困,社会的分断,環境危機を悪化させる」と述べている。さらに,「汚職にはさまざまな形態があり,以下のような行動が含まれる」とし①公務員がサービスの見返りに金銭や便宜を要求あるいは,受け取る,②政治家が公金を不正使用したり,スポンサー,友人,家族に公職や契約を与えたりする,③儲かる取引を得るために,企業が役人に賄賂を贈る,を挙げている。ただしTIの指摘は,世論調査に基づく「汚職に関する専門家や国民の認識」を示しており(注1)汚職の事実に基づくものではない。
政府
2月12日,首相府での演説で,アヌティン首相は,TIの調査結果について「33点はかなり低く,落第点だ,汚職に対する認識が投資家の信頼を損なう」と述べ,汚職対策を最優先の国家的課題に引き上げたと発表した。また,アヌティンは,ボルウォーンサク副首相と公共部門反汚職委員会(PACC)に対し,立法や大臣の規則から布告,新たな法律に至るまで,タイの汚職防止・抑制能力強化のための法律・手続き・規制の改革を早急に準備するよう指示したと述べた。タイは2024年にOECDに加盟申請し,現在,協議中である。OECD加盟のためにも,効果的な汚職対策が求められる(注2)。
タイ反汚職機構(ACT)
2025年12月25日,タイ反汚職機構(ACT)は年次報告書「2025年の10大汚職スキャンダル」を発表した。ACTは2011年,タイ商工会議所の会頭ら財界が中心となり,複雑化する政府プロジェクトの汚職による国損を防ぐために設立された団体である。マナACT事務局長は,2025年は「ネットワーク化された汚職の年」だったと述べた。10のスキャンダルのうち,特に重要なのは以下4点である。
- (1)国家監査院(SAO)ビル崩壊:2025年3月の地震で倒壊し,86人が死亡,20億バーツ(約100億円)の損害を出した。その被害規模にもかかわらず,国家反汚職委員会(NACC)と政府によって,公式調査報告書が隠蔽されているとされ,首謀者たちは処罰されていない。
- (2)グローバル詐欺と「グレー・キャピタル」のネットワーク:イム・リーク,ベン・スミス,コック・アン,チェン・ジーというカンボジアを拠点とする巨大コンツェルンや,政界との繋がりが深い人物たちで構成されるネットワークから100億バーツ(約500億円)以上の資産が差し押さえられた。差し押さえられた資産の中にはタイの現職大臣や警察高官と関わりのある企業の株式や資金「グレー・キャピタル」が含まれており,このスキャンダルは,タイ経済に推定年間1,153億バーツの損失をもたらすとされている。
- (3)タクシン収監論争:タクシン元首相は,矯正当局及び警察病院の法の歪曲による,病院のVIPルームでの「バーチャル拘留」を経て,実際に投獄された。国家人権委員会の調査により,最高裁の判決のえこひいきがタイの国際的な司法評価をいかに損なったかが明らかとなった。
- (4)ピチェット・チュアムアンファン下院副議長の解任:ピチェットは,憲法違反により,憲法裁判所により解任された。彼は自身の小選挙区に特化した4億4,300万バーツの予算を割り当てたことで副議長職との利益相反と認定された。ACTはこの慣行が蔓延していると主張しているが,ほとんど起訴されていない。
また,マナ事務局長は,総選挙に向けて,「個人的には詐欺ネットワークからの100億バーツの資産差し押さえ事案が最も重大な問題だと考えている。なぜなら,『グレー・キャピタル』が我々の政治・経済構造に浸透しているからである。「バーン・ヤイ」(地方を支配する有力政治家一族),影響力のある人物,違法な利害関係者に支援された候補者を選出するのはやめなければならない。国家に奉仕する有能で正直な候補者を選んで欲しい」と述べた(注3)。
さらに,事務局長は「タイの汚職が単なる数人の悪質な個人の問題ではなく,拡大し悪化し続ける構造的な問題であるにもかかわらず,過去2年以上,3つの政権にわたり,真剣な反汚職政策・措置がまったくとられていない」と述べている(注4)。
タイ工業連盟(FTI)
クリエンクラ・タイ工業連盟(FTI)会長は「政府調達において,キックバックの支払いがプロジェクトの売上高の20〜30%に達することがあり,年間最大5,000億バーツ(約2.5兆円)の損失が推定され,汚職は国家競争力を蝕む構造的コストとなっている」と述べている。また,クリエンクラは「汚職が経済成長を妨げている。汚職がなければ,タイのGDP成長率は4%に達する可能性があるが,現実には,汚職によって,最大でGDP成長率の2%分が失われている。問題を解決すれば,タイは「アジアの病人」であるという負のイメージを脱する助けになる」と述べている(注5)。
“ゼロ汚職:JSCCIBとその同盟者はそれを容認しない”
2025年11月18日,タイ主要経済3団体連合委員会(JSCCIB:1977年に商工会議所(TCC)・工業連盟(FTI)・銀行協会(TBA)の民間経済3団体が設置)のポジ議長は,同年10月3日に委員会が「ゼロ汚職:JSCCIBとその同盟者はそれを容認しない」と題した新たなタスクフォースの設立を承認したと発表し,タイの民間セクターがあらゆる形態の汚職に反対すると述べた。このイニシアチブは,汚職を公共部門の効率性と国家競争力の大きな障害と位置づける「リインベンション・タイ」の広範な議題の一部である。このタスクフォースはACT,NACC,PACCなどの支援・協力を受けている。ポジは「被害の金銭的価値は,実際の数字を誰も報告していないため,定量化が難しい。汚職がなければ,タイ経済は今年の推定2%から4%に成長率を高められる可能性がある。民間セクターはもはや汚職を容認できなくなった。なぜなら,その結果は最終的に市民が被るからである。汚職解決は「グレー・キャピタル」の問題に取り組むことでもある」と述べた。クリエンクライFTI会長は「タイ銀行家協会のデータによると,グレー・マーケット事業が国内経済の48%を占めている。これがなければ,現在,約2%の経済成長率は4%に近いはずである」と述べた(注6)。
選挙管理委員会
総選挙の再選挙と再集計の原因がミスでなければ,選挙管理委員会(選管)の汚職の可能性がある。2月11~12日に実施された国立開発行政研究院(NIDA)による世論調査(NIDA poll)によれば,8日の選挙で回答者の選挙区で不正があったかどうかを尋ねたところ,40.08%が「絶対ない」と,23.51%が「わからない」と,19.54%が「不正の可能性がある」と,16.87%が「確実に不正があった」と回答した。「不正の可能性がある」及び「確実に不正があった」と回答した477人に選管が選挙区内で不正を犯した者を処罰できるかどうかについて尋ねたところ,58.28%が「選管は誰も罰せられない」と,28.93%が「場合によっては,選管は一部の人々を処罰できるかもしれない」と,11.32%が「選管は確実に処罰できる」,1.47%が「回答なし・興味がない」と答えた。有権者の多くは,「不正はない」と考えているが,不正があった場合,選管は適切に対処できないと考えている。すなわち,選管もは国民から信頼されていない(注7)。
[注]
- (1)トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)“ What is corruption?”(2026年2月21日最終閲覧)。
- (2)The Nation, 12 February 2026.
- (3)The Nation, 25 December 2025.
- (4)The Nation, 11 February 2026.
- (5)Ibid.
- (6)The Nation, 18 November 2025; Bangkok Post, 19 November 2025.
- (7)The Nation, 15 February 2026; Thai PBS WORLD, 15 February 2026.
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