世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4226
世界経済評論IMPACT No.4226

世界コミュニティの可能性

原 勲

(北星学園大学 名誉教授)

2026.02.23

 筆者はこれまで個人,家族,地域社会,国家の全てが「共同体資本主義の概念の基で初めて平和,安全,進歩,成長が実現する」であろうことを提唱してきた。筆者の責任において改めて書き表したが,本稿は第一に「全体主義の克服」(集英社 中島孝弘氏と共著)で,しばしば全体主義の脅威について研究成果を披露したドイツの哲学者マルクス・ガブリエルの見解を取り上げることにする。

 ガブリエルは近年NHKの正月番組等に出演しており,その発言内容に強い関心も持っていたが,上述のガブリエルの著書によってようやく全体像を掴むことが出来た。ガブリエルから得たヒントのひとつは,情報化社会は,全体主義を招くので,生涯をかけて戦うという彼の強い意志に触れた事,もう一つは,その全体主義に対応する人間の社会的行動を詳しく指適していることである。

 ガブリエルは他人と自分は違った存在であり,自分は他人の存在を絶対に否定しないという精神を所有していると述べている。議論の端緒をはなれるが,こうした現代社会を情報化社会の観点で容易に論じる人がAIの普及とともに数多くなってきていることは確かだが,哲学者の立場から情報化社会論を真っ向から論論じた人としては,イスラエルの人類学者ユアル・ノア・ハラリが際立っており,彼の近刊『NEXUS情報の人類史 上下巻』に詳しい。そして両者の見方は現代社会(世界)は全体主義化したと主張する極めて類似した見解を示している。

 ガブリエルの見解に話を戻す。他人と自分の存在は絶対的に異なるので他人の存在を否定しないことは勿論ではあるが,このような思想に立つならば,人とむやみに比較したり,畏れいって服従したり(全体主義が生まれる),反対に人を見下したり(差別意識が生まれる)は絶対しないという。

 しかしながらガブリエルは,個人として強く生きるという「デモクラット精神」だけでは真の民主主義社会は確率しないと考える。現在のデモクラシーには少なくとも,平等とか博愛という精神が疎んぜられているからである。

 例えば世界最大の資本主義国アメリカは,「人権とか独立とか個人の自由」を最も強調する国で,その結果として強い競争力を持って成功してきたが,平等を進めている国ではなく,富める成功者と貧しい新しく参入する移民などの格差は大きく,コロナ被災者,死者は世界最大で,医療も受けられなかった国民の累積存在が,背景にあることは明白である。

 アメリカは,バイデン前大統領も,しばしばデモクラシーの国であることを誇らしくメディアを通じて述べるが,現状ではデモクラシーが完成されている国とは言えない。これがトランプ大統領になってから更に明白になった。

 実はもう一つの重要なデモクラシー実現目標がある。それは博愛の精神,つまり自分と縁の深い夫(妻)であろうと,実は自分とは異なった独立して存在している人間であることを認識することは勿論であるが,他方で自分と日常的にはかかわりを持たない人も仲間として愛情を持って接する,これが博愛精神の基本である。この精神は,フランスの市民革命によって生まれた精神だが,この言葉の意味さえ忘却されかねなくなった自称民主主義国家は,ある意味で偽物というべきであろうとガブリエルはいう。さて筆者のコミュニティ資本主義論は,こうした資本主義社会制度の根本的な欠陥を克服していこうとする主張であり,一見地球上の世界では,実現困難な世界に見えるかもしれない。これに対し筆者は,地球を飛び越えて銀河系の宇宙からでも世界コミュニティを確立することを提案したい思いである。そして,それは実のところ,宇宙にまで非人道的世界を広げようと考えている一部の地球人に対する抵抗であることも事実ある。家族共同体も,地球共同体も,国家共同体も,そして世界共同体も,その組織目的は共通であることは当然としても,実はそこに参加している人は,皆それぞれに異なった生まれ育ちの違う環境で生きている(それは自分と同様に強い家族愛を持った同じ仲間だ)と心から理解するのが,本来人間社会の在り方だと考える。これをごく当然のことと理解し行動する人も勿論皆無ではない。最近のテレビドラマで多くの人々に共感と感動を齎して大ヒットしている日本の作品がある。脚本家の生方美久氏による完全オリジナルストーリー“海のはじまり”だ。人は健全な地球上のコミュニティの中で生きていることを決してあきらめた訳ではないことを確信できるのは,改めてうれしいことである。世界コミュニティの実現は普通の人間が普通の暮らしの中で普通に成し遂げることに他ならないのではないか。そう考えると少し気が楽になる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4226.html)

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