世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「九条を守る改憲」もあり,高市改憲は通すためのものではない
(エリス・コンサルティング 代表)
2026.02.23
改憲とは何か?
高市自民党の圧勝を受けて,「改憲が現実味を帯びた」「国民投票で通ってしまうのではないか(通らないのではないか)」といった言説が急増した。だが,この反応には一つの決定的な欠落がある。それは,改憲を結果,つまり「通過するかどうか」の問題としてしか捉えていない点だ。本当に問うべきなのは,改憲が通るか否かではなく,高市にとって改憲とは何なのか,という問いである。
多くの議論は,憲法第九十六条(憲法改正手続)を確認し,国民投票というハードルを指摘し,「だから簡単には通らない」「いや,勢いで通るかもしれない」といった往復運動を繰り返す。しかしこれは分析としては浅い。なぜなら,それらはすべて,高市の目的が「改憲の成立」であることを無意識の前提にしているからだ。選挙結果と国民投票を直線で結び,自民党圧勝から改憲可決までを一本の線で描く思考は,政治を点の勝敗でしか見ていない。
視点を変えれば,まったく異なる像が浮かび上がる。高市の目的は,改憲を通すことではない。改憲を発議し,国民投票という回路に乗せること,そこまでではないか。国会発議から国民投票に至るというプロセスは,戦後日本政治において長く触れてはならないタブーだった。それを一度でも現実に起動させることができれば,結果が可決であれ否決であれ,意味は決定的に変わる。憲法は神棚から降り,可動する制度になる。
高市早苗は安倍晋三を超える
発議し,国民に問い,国民が判断する。この一連の手続きを現実にやり切ること自体が,「戦後タブーの打破」であり,憲政史上の事件である。仮に国民投票で否決されたとしても,高市は敗者ではない。むしろ,政治家としてやるべきことをすべてやった存在になる。国会で発議し,国民に問い,結果を引き受けた。これは,日本の保守政治が一度も果たしてこなかった責任の取り方である。
その時点で,高市は単なる「改憲を唱えた政治家」ではなく,「改憲という手続きを現実に起動させた政治家」になる。これは政治史上の評価軸を一段引き上げる行為であり,結果として,安倍晋三が到達できなかった地点に立つことを意味する。可決されなくても,歴史は書き換わる。高市は成功者としてではなく,制度を動かした者として記録される。
改憲=九条という短絡
九条の話はいったん措くとして,戦後八十年,一度も本格的に見直されてこなかった憲法そのものについて,筆者は「見直すこと」自体に強く賛成する。私は通常の選挙投票を拒否しているが,それは代表制民主主義への不信によるものであり,国民が直接判断する別の意味での国民投票には必ず行く。賛成か反対かは,改憲の内容次第だ。
だからこそ,私は無条件に賛成でも反対でもない。その前提において,改憲という行為そのものには賛成である。
その判断にあたって,筆者は改憲条文を単純な理念やスローガンでは評価しない。憲法を含めて法律は常に以下の5原則に基づき審査・判断されなければならない。
- ① 個別条文本体が何を規定しているか
- ② その条文がどのような解釈と運用の余地を持つか
- ③ 他の条文との関係でどのような意味を帯びるか
- ④ 背後にある法理や体系と整合しているか
- ⑤ そして現実の政治とどう絡み合い,どのように使われうるか
ここで重要なのは,改憲が九条に限定されないという点だ。「改憲=九条=戦争or平和」という短絡こそが,日本の議論を硬直させてきた最大の原因である。だからこそ,「九条を守る改憲」「九条は次世代の判断に委ねる」という整理が意味を持つ。これは護憲でも改憲強行でもない。不可逆性の高い判断を,今の世代が独占しないという,制度設計の問題である。
九条を棚上げにすることで,改憲は思想闘争から離れ,統治や制度整備の議論に戻る。そして何より,「改憲とは九条を壊すことだ」という反射的思考を解除できる。改憲が通るかどうかは重要ではない。改憲を,国民が判断できるテーマにまで引き上げたかどうかが重要なのだ。
結局のところ,ここで行われているのは価値闘争ではない。制度をどう可動化し,判断可能性を次世代に残すかという設計の話である。その意味で,高市の政治は,通過を目的としない改憲という新しい位相に立っている。これは右でも左でもない。制度屋の仕事である。
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