世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
世界秩序と国際関係理論:ネオコンの介入疲れからトランプ流モンロー主義へ
(フリーランスエコノミスト・元静岡県立大学 大学院)
2026.02.02
世界秩序と自国第一主義の相剋
世界秩序における帝国主義の歴史を鑑みる際に,トランプ第二次政権に代表される自国第一主義は,なぜ時折多国間主義を離脱するのかという疑問が湧く。これが本稿の問題意識である。本稿の考察では,新保守主義者(以下ネオコン)による国際紛争など世界情勢への「介入疲れ」や,自由貿易主義に代表されるリベラル国際秩序の結果としての「パワーシフト」を原因とした自国の立ち位置の揺らぎなどの国際情勢の変化で,多国間主義からの離脱など自国の戦略が変更される。以下では,世界秩序における勢力均衡が変容した歴史を概略する。
「一極時代」を終わらせたネオコン
アミタフ・アチャリア(2022)によると,米国覇権の時代を象徴する「一極時代(Unipolar Moment)」という言葉が米メディアに登場したのは,1990年8月にイラクがクウェートに侵攻した直後のことである。名付け親は,保守派評論家のチャールズ・クラウトハマー(Charles Krauthammer)だった。クウェートを占領していたイラク軍を米主導の多国籍軍が撃破し,クウェートを解放すると,メディアにおける「一極時代」の使用頻度は一気に高まった。ただし,この言葉が「米国支配による世界」を意味していたため,当時の米大統領,ジョージ・H・W・ブッシュ(ブッシュ父)自身はこの言葉を表立っては使用していない。1990年9月の議会演説で彼が「東西,南北の国々それぞれが繁栄し平和的に共存する世界となるだろう」と,新たな世界秩序が米国支配ではなく,多国間主義と国際協調によって推進されると謳ったのは,良い例である。それに対してクラウトハマーは,「世界はパクス・アメリカーナ(米国覇権による平和)の時代に入ったことをなぜ,認めないのか?どの国もこのような米国の立場を羨ましがるはずだ。遠慮する必要は全くない」と,米国覇権による「一極時代」の到来を堂々と宣言した。
では,この一極構造を脅かすものは何であったのか。クラウトハマーは,それを中国のような新たなライバル国でもなければ,米国国内のリベラル系孤立主義者(いわゆる反ベトナム戦争世代の米国的価値を拡散するための軍事的関与を否定する人々)でもない。1番の脅威は,米国内の伝統的な保守派層で,「米国の国際的関与はすべて米国の国益に反する」と主張する昔ながらの孤立主義者だ,としていた。しかし,クラウトハマーの見方は間違っていた(本人自身ものちに間違いを認めている)。実際に「一極時代」の幕おろしをしたのは昔ながらの保守主義者ではなく,ブッシュ政権の外交政策を牛耳っていた「新保守主義者(ネオコン)」だった。このネオコン達は,皮肉なことにクラウトハマーが描いたパクス・アメリカーナを継続しようとして,逆に終わらせてしまったのだ。クラウトハマーの考えでは,米国のリーダー達が,多国間主義を冷静に維持しながら,積極的な外交政策を展開して敵や脅威に立ち向かう限り,一極構造は継続するはずだった。ところがブッシュ政権は,一国主義外交によって一極構造の維持を目指すという間違った方法を取ってしまい,その結果,「一極時代」そのものの終焉を導いてしまった。
米国がネオコンからモンロー主義へ移行する理由は介入疲れ
米国覇権の米国国内の不安要因に関して,アミタフ・アチャリア(2022)によると,「アメリカを再び偉大な国に(Make America Great Again)」と約束したトランプ大統領は,現在起きている世界的なパワーシフトを逆戻りさせることができるだろうか,という問いに対し,「おそらくできない」と指摘する。なぜなら,このシフトは世界経済の構造レベルで長期にわたって起きた変化だからだ。BRICS諸国の経済発展の減速が恒久的になるか,もしくは中国とインドが長期的な「中所得国の罠」に陥らない限り,欧米諸国から「その他勢力」へのシフトは今後も継続するだろう。そして,トランプ大統領が,貿易,同盟関係,多国間関係において進める「アメリカ・ファースト」政策そのものが,米国が主導して構築したリベラル国際秩序に深刻なダメージを与えるだろう。
共和党のトランプ支持者達が「アメリカ・ファースト」の下,米国のこれまでの国際関与や同盟関係をあからさまに否定していたことは,記憶にも新しいが,似たような動きは民主党側の若い世代にも起きている。若干29歳の若さで2018年にニューヨーク州の下院議員になったアレクサンドラ・オカシオ=コルテスらを中心とした「プログレッシブ派」と呼ばれる議員達が民主党内での新しい勢力として影響力を拡大しており,彼らも米国のこれまでの国際関与については,軍事費抑制と新自由主義通商システム見直しの観点から往々にして懐疑的な立場をとっているのだ。
この傾向は最近の米国の若者の中にも見られる。芦澤久仁子氏は2012年からワシントンDCにある複数の大学で,専任講師として国際関係論及び日本について教えているが,その授業で接する大学生達の中にも,米国の国際的関与を懐疑的に見る声が年々増えてきているという。そのような見方をする学生らの立ち位置は民主党の「プログレッシブ派」の流れにあり,民主主義や人権擁護推進の観点からの同盟関係は支持しながらも,米国のこれまでのレベルの軍事展開や世界的リーダーシップを維持するのはもう無理だし望ましくない,と考えている。
「トランプ流モンロー主義」はどこへ向かうのか
吉田(2026)によると,トランプ政権のベネズエラ侵攻の目的を専ら世界最大の埋蔵量を誇る同国産原油への利権に結び付ける論調があるが,それは本質ではない。自国第一主義を掲げる第二次トランプ政権の「国家安全保障戦略(NSS)」は,西半球における優先目的として,①米国への大量移民の防止,②麻薬テロ,カルテル,越境組織犯罪対策,③敵対的外国勢力の侵入,重要アセット保有の排除等を明記した。吉田はこれを「トランプ流モンロー主義(Trump Corollary of Monroe Doctrine)」と呼んでいる。実際,大統領は自ら,「ドンロー主義」(ドナルド流モンロー主義)と称し,ベネズエラ侵攻をその実現と位置づけている。マドゥーロ政権は,原油の大半を中国に輸出し,米国がベネズエラとともに「悪の枢軸」と呼んできたニカラグアやキューバへの支援に活用した。単なる経済利益にとどまらない戦略的意義が垣間見える。日本の商社も,同国石油事業に参画し大規模投資を行った。しかし,同国の政情不安や経済制裁のために撤退を余儀なくされた。日本の民間企業が,将来の石油事業に参画するかどうか論ずるのは時期尚早だが,我々は同国情勢を見るときに,こうした経緯も忘れてはならない。
これに対する世界による米国政治の見方は,柳(2026)によると,そうして始まったトランプ第2期の1年間,世界は再びトランプ流の「米国第一主義」に翻弄され続けている。 かつての共和党大統領は,対外政策・安全保障においては国際協調主義,通商においては自由貿易主義を標榜していた。しかし,トランプ氏は,ユニラテラリズム的な対外政策・安全保障,地経学的な通商政策という真逆の姿勢をとって,党内予備選挙と大統領選挙を勝ち上がった。昨年12月,英エコノミスト誌が「米国の新しい国家安全保障戦略をみると,米国は当てにならない同盟国であり,最悪に備えた方がいい」と警告したように,「米国は変質してしまった。もう元の姿には戻らないのではないか」という悲観論が世界を覆っている。
権力移行(パワートランジッション)はソフトランディングかハードランディングか
第二次世界大戦後80周年を迎え,「米国の介入疲れ」と,「世界経済の発展」によるパワートランジッションが起こりつつある2026年現在において,米国後の世界秩序が,どのような構図になるか全容はまだ定かではないが,自国第一主義の機運の高まりがトレンドとなり,2026年度は,より一層のリアリズム(現実主義)的な時代の再来が謳われる。世界秩序におけるパワートランジッションは,平和的かつ持続的に遂行されることが望まれるが,これは米国にとっては,覇権秩序から勢力均衡へと移行することを意味するため,第二次トランプ政権の「トランプ流モンロー主義」が,結果的にアミタフ・アチャリア氏が唱えるような,マルチプレックスな世界秩序に落ち着くか否か,予断を許さない状況にある。したがって,世界秩序における自国第一主義の国益の観点を理解・把握・配慮しつつ,今後の国際政治がどう推移していくか,注視していく必要がある。
[参考文献]
- (1)アミタフ・アチャリア(著), 芦澤久仁子(訳)(2022), 『アメリカ世界秩序の終焉:マルチプレックス世界のはじまり』, ミネルヴァ書房.
- (2)柳淳(日本国際問題研究所プラットフォーム本部長,前在シカゴ総領事)(2026), 「「例外国家」に回帰するトランプ2.0:中西部で築く防波堤」, 日本国際問題研究所, 国問研戦略コメント(2026-2), 2026年1月22日.
- (3)吉田朋之(日本国際問題研究所所長)(2026), 「ベネズエラ情勢のトリセツ」, 日本国際問題研究所, 国問研戦略コメント(2026-1), 2026年1月8日.
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