世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4164
世界経済評論IMPACT No.4164

株式上場への企業の戦略的意思決定:非上場化急増と上場リスクの正体

梶浦雅已

(愛知学院大学 客員教授)

2026.01.19

 かつてマイケル・ポーターは,企業が競争市場において打ち勝つための競争戦略を明示した。しかし,現在では,株式市場において企業は自ら意思決定して経営戦略を構築しようとしている。

 わが国では数年前から株式上場に関する企業の行動が変化した。この動向はそれ以前の企業行動とは明らかに異なるものである。2025年非上場化した企業数は124社。2024年の94社,2023年の61社から急増した。一方,新規上場した企業数66社は2024年の86社から大きく減少している。企業側の声明として,おおむね長期的経営戦略,フリーハンドを志向しての非上場化という。しかし,その背景にはモノ言う株主による企業価値の毀損懸念を企業が自覚したからだということが報道されている。それではなぜそもそも上場したのだろうか。その上場を止める,上場を回避することとの因果関係はどのようなものなのか。これらが従属変数とすると,独立変数には株式上場のリスク要因が想定される。しかし果たして,株式上場リスクという因子は長期的経営戦略・企業側の自由度,すなわちフリーハンドを制約し,企業価値棄損をもたらすのであろうか。現象としては,企業側にとって株式上場によるデメリットの顕在化が,非上場化や上場回避と関連するように見える。

 一般的に,株式上場による企業のリスクとコストは,非上場企業よりも大きくなりやすい。ただし,資金調達力や信用力などのメリットは大きく,トレードオフの関係がある。それにも関わらず,デメリットが顕在化し,かつ大きくなっているため,非上場化や上場見送りが増えているのではなかろうか。またそれはなぜなのか。

 ある試算によれば,プライム市場では高い透明性・ガバナンスが求められるため,上場維持コストは年間5,000万から1億円以上となり,大企業では数億円規模になることもあるとされる。金額だけではなく,プライム市場で上場維持するためには,多くの面倒な要求にも対応しなければならない。それらは英語による情報開示が事実上必須,ガバナンス,コンプライアンス要求,流通時価総額100億円以上などの基準維持,モノ言う株主対応のためにIR・法務体制を万全に準備しなければならない等がある。

 具体的な上場のリスクとしては,株価変動による市場での企業価値の不安定化,情報開示の義務化,すなわち四半期ごと決算開示,適時開示などの厳しい的確性,経営フリーハンドの低下,短期志向の株主・市場評価の圧力により長期的な経営戦略がしにくくなる。さらに近年報道されているように,株式が市場売買されるため,想定外な合意なき買収が仕掛けられることがある。

 上場リスクは企業側が意識することである。では,長期的経営戦略とはいったい何であるのか,短期志向とは企業価値を毀損するというとはどのようなことなのか。現在,改訂に取り掛かっているコーポレート・ガバナンスコードでは,また日本企業を対象とした学術研究では,どう解されているのか。また,MBO(買収・経営権取得)など企業自身が上場廃止に伴い選択する防衛戦術などについて,次回以降述べてゆきたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4164.html)

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