世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4083
世界経済評論IMPACT No.4083

北海道電力泊3号機の再稼働許可:「原発脳」脱却し再エネ拡充の健全経営へ

橘川武郎

(国際大学 学長)

2025.11.17

 2025年7月30日,原子力規制委員会は,北海道電力の泊原子力発電所3号機について,同社の申請内容が新規制基準に適合しているとして,原子炉等規制法にもとづく原子炉設置変更許可を交付した。この結果,泊3号機は,全国で18基目,PWR(加圧水型軽水炉)に限定すれば13基目の新規制基準合格プラントとなった。

 北海道電力は,原子力規制委による設置変更許可交付を受けて,早ければ2027年中の泊3号機の再稼働をめざす。そのための当面の焦点は,防潮堤新設などの安全対策工事の進捗と,地元同意の形成とに置かれる。

 北海道電力が原子力規制委に泊3号機の適合性審査を申請したのは,新規制基準が施行された当日の2013年7月8日のことである。それから,今回の設置変更許可交付まで,じつに12年余の歳月が流れたことになる。

 その間,北海道電力は,「原発脳」の虜となっていた。「原発脳」とは,筆者の造語であり,電源といえば第一義的に原子力を思い浮かべる思考様式のことである。

 北海道電力が12年ものあいだ「原発脳」に取り憑かれてきたことは,ある意味ではやむをえない面もある。旧一般電気事業者のうちPWRを運営する会社は4社あるが,北海道電力以外の他の3社(関西電力・四国電力・九州電力)は,とっくに原子力規制委の審査を済ませ,動かすべき原子炉の再稼働を実現して,経営の安定化を達成している。申請当初の原子力規制委への対応の拙劣さもあって,北海道電力だけが,長いあいだ取り残されてきた。したがって北海道電力は,経営を安定させる効果が大きい原子力発電所の再稼働を人一倍希求していたのであり,「原発脳」の虜にならざるをえなかったのである。

 しかし,泊3号機の再稼働が実現すれが,北海道電力は,「原発脳」から脱却することが可能になる。北海道は,誰もが認める再生可能エネルギーの宝庫である。太陽光,風力,水力,地熱,バイオマスのすべてについて,日本の他の地域にはない高いポテンシャルを有する。それらを最大限活用し,主力電源の一つに成長させるためには,北海道電力の積極的な関与が必要不可欠である。「原発脳」から脱却するこれからの北海道電力は,健全経営へと向かい,再エネ拡充にも力を入れることになろう。

 一部の反原発論者は,北海道の再エネを活かすためには,泊3号機を運転停止にすべきだと言う。しかし,これは,まったく的外れな意見である。実際には,北海道電力が泊3号機の再稼働を実現した方が,同社が再エネ拡充に目を向けるようになり,道内の再エネ資源が活用される蓋然性は高まる。そして,脱炭素電源であるという共通性を有する原子力と再エネとの共生が進むのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4083.html)

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