世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3362
世界経済評論IMPACT No.3362

経済発展とCorruption

小浜裕久

(静岡県立大学 名誉教授)

2024.04.08

 多くの専門家,政治学,経済学,社会学などの専門家が「Corruption」について考えてきた。1887年のActon 卿の言葉を引用する専門家も多い(『権力は腐敗する』;Power and Progress, p. 89)。

Acton 卿の言葉:

Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely. Great men are almost always bad men, even when they exercise influence and not authority, still more when you superadd the tendency or the certainty of corruption by authority. There is no worse heresy than that the office sanctifies the holder of it.

(Letter to Archbishop Mandell Creighton, Apr. 5, 1887)

 安倍政権批判で知られる前川喜平・元文部科学事務次官は,『権力は腐敗する』の「はじめに」でアクトン(19世紀イギリスの思想家・歴史家)の言葉を書いている。アクトンの思想の精髄は,「自由とは良心の支配である」という言葉にあると前川は言う。

 かれこれ50年くらい,経済発展や開発政策を勉強してきた。不勉強のせいか,分からないことも多い。「経済発展とCorruption」の関係も分からないことの一つだ。多くの文献を渉猟したわけではないが,例えばSamuel P. Huntingtonの古い本(Political Order in Changing Societies)を見ると,第1章にModernization and Corruptionという短い節がある。そこでは,いろんな時代,いろんな国について,さらには宗教と「Corruption」の関係について,ハンティントンの考えが述べられている。封建社会が近代化すると「Corruption」は少なくなるとハンティントンは言う。直感的にはそうかもしれないという気もする。日本と中国を比べると,日本の方が中国より「Corruption」は少なく,イスラム教の社会よりヒンドゥー教の社会の方が「Corruption」は少ないとハンティントンは書いているが,これについては不勉強で分からない。

 洋の東西を問わず,時代を問わず,政治の腐敗,政治家・役人の汚職,民間企業から政治家・役人への賄賂などのニュースには事欠かない。戦後日本を振り返っても,1976年に発覚したロッキード事件,1988年に発覚したリクルート事件など,枚挙にいとまがない。魚住昭は『特捜検察』で,公共工事受注額の3%を端数まできちんと田中角栄に上納していたと書いている。なにも20世紀の日本だけではない。Bardhanは,紀元前4世紀のインドにおける役人の汚職について書いている(Journal of Economic Literature, September 1997)。

 どうも「Corruptionか否か」という政策議論は,スパッと割り切れない。「頭のいい人間は政治家にならない」と言う論者もいるが,政治家の質は有権者の質に比例すると思う。要は有権者が賢くならなければ,政治の質は向上しないという,当たり前の結論になってしまうのだ。

 小さな,あるいはミクロの汚職はなくならないだろう。公共事業を受注しようとする建設会社が,国や県の担当者に賄賂を贈って入札に関する情報を得ようとするような汚職のことだ。問題は,このようなミクロの汚職ではなく,マクロの「Corruption」だ。これは,マクロの政治,経済と関わってくる。そこに既得権益が生まれる。

 現代社会では,100年前200年前と比べて,「Corruption」は少なくなっているのだろうか。それともYuen Yuen Angが言うように,昔より巧妙になっているだけなのだろうか。アメリカではロビイストが,日本では業界団体が政権に様々な圧力をかけて自分のクライアント,自らの業界に有利な経済環境を実現しようとする。アメリカの金融業界は多くの資金を使って規制緩和を政府に求め,それが2008年の金融危機の一因となった。

 日本の参議院の定数も慣れによる既得権益だろう。長く続いてきたからそれは日本社会にとって望ましい制度かどうか,虚心に考えるべきだ。日本の参議院の定数は248人だろうか。政治家は,平気で身を切る改革と言うが,定数に大きく切り込むことはない。都道府県各2人で十分じゃないだろうか。そうすれば日本の参議院定数はだいたい100人になる。アメリカの上院議員は100人。日本はアメリカより国土が広いから,人口も多いからアメリカより多くの参議院議員が必要だというわけじゃないだろう。それともアメリカの上院議員は日本の参議院議員に比べてえらく生産性が高いのだろうか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3362.html)

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