世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
競争戦略とビジネスモデル
(常磐大学 教授)
2024.03.18
競争戦略(事業戦略)とは,企業が完全競争から利益が生じる独占の方向を目指すものである。競争戦略すなわち競争の優位性の源泉あるいは獲得については,企業の外部環境と内部環境に着目したものがある。外部環境では,産業(業界)における位置付けである「ポジショニング」に着目し,内部環境では,技術や人材といった異質で固有な「経営資源」,そして状況に柔軟に対応しそれらを組み合わせる「ダイナミック・ケイパビリティ」に着目する。
すなわち,競争をめぐっては,ポジショニング,経営資源,ダイナミック・ケイパビリティの視座が存在している。そして,これらは,それぞれフィットする競争状況が異なり,ポジショニングは参入・移動障壁といった産業構造が影響している状況,経営資源は製品・サービスの差別化が競争の焦点となっている状況,そしてダイナミック・ケイパビリティは不確実性が高い環境下でイノベーションが競争の焦点となっている状況で重視される(入山章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社,2019年)。
ポジショニング,経営資源,ダイナミック・ケイパビリティは,それぞれ5フォース,VRIO(価値・希少性・模倣困難性・組織),センシング・シージング・トランスフォーミング(感知・捕捉・変容)といった分析フレームワークが存在する。3つの分析フレームワークの統合は困難と考えるが,それらの視座をビジネスモデルに統合できると考える。そこで,本稿では,上記の議論を踏まえ,その一試案を提示してみたい(説明は異なるが同様の見解として,小山龍介『ビジネスモデル』ディスカヴァー・トゥエンティワン,2020年が挙げられる)。
ビジネスモデルとは,競争戦略を具現化した利益を生み出す仕組みである(井上達彦『ゼロからつくるビジネスモデル』東洋経済新報社,2019年)。具体的には,企業の外部環境と内部環境を分析し,「誰に」「何を」「どのように」提供し利益を上げるのかについて考える。外部環境分析ではポジショニングを分析し,内部環境分析では経営資源さらにダイナミック・ケイパビリティを分析する。これらを前提に,ビジネスモデルを考える際に一般的に用いられているビジネスモデル・キャンバス(アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニュール『ビジネスモデル・ジェネレーション』(小山龍介訳)翔泳社,2012年)で競争戦略との関係を考えてみると,外部環境である(b)顧客接点(②顧客セグメント③顧客関係④チャネル,主に「誰に」)は主にポジショニングを踏まえて考察し,内部環境である(c)経営基盤(⑤資源⑥活動⑦パートナー,主に「どのように」)は主に経営資源とダイナミック・ケイパビリティを踏まえて考察し,(a)顧客価値(①価値提案,主に「何を」)がそれらを統合する。そして(b)顧客接点が⑧売上(収益),(c)経営基盤が⑨コスト構造を反映し,それらは売上-コスト=利益を示す(d)財務的側面(⑧売上⑨コスト構造)を表している。(a)顧客価値と(b)顧客接点の間には「有効性」が求められ,(a)顧客価値と(c)経営基盤の間には「効率性」が求められ,さらにそれらが「持続性」あること(加護野忠男・井上達彦『事業システム戦略』有斐閣,2004年)すなわち外部環境と内部環境の変化・適合で,長期的な利益につながるのである。
以上のことから,競争戦略に係るポジショニング,経営資源,ダイナミック・ケイパビリティは,競争状況によって重視されるものは異なるが,視座そのものはビジネスモデルに統合可能であり,さらにいえば,ビジネスモデルを考える際には,この3つの視座が必要なのである。
*本稿テーマに関連する詳細な論考は,「グローバル・バリューチェーンを見る新たな視点:ビジネスモデル,競争戦略,雁行形態論」(世界経済評論インパクトプラス No.27)を参照ください。
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村中 均
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