世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3271
世界経済評論IMPACT No.3271

人口減少社会に対応した都市計画制度・まちづくり政策への転換

戸所 隆

(高崎経済大学 名誉教授・(公社)日本地理学会 元会長)

2024.01.22

1.人口減少にも係わらず拡大する市街地面積

 日本の都市は高度経済成長期から一貫して市街地面積を拡大してきた。その主な要因は人口増加による住宅・商業地・工場地・インフラ施設地等の需要増にあった。工業化社会の1980年代までは人口増加と中心市街地を核とする人々の行動から概ね秩序ある都市構造が構築されていた。

 しかし,国際化・情報化による知識情報社会への転換を始める1990年代以降,地方都市を中心に人口減少が始まり,中心市街地の空洞化・産業構造の転換で旧郊外から工場等の海外展開・閉鎖が顕著となった。他方,既成市街地外縁部で地価の安い非線引き都市計画地域や都市計画規制の効かない地域には,広大な土地を求めて東京を中心とする域外資本の大規模商業施設・工場・倉庫,住宅が立地してきた。この結果,中心街や既成市街地が空洞化し,公共交通システムなども崩壊した。他方で,外縁部には人口密度の低い市街地が急拡大し,新たなインフラ需要と財政負担の増大を生み出している。

 以上は「地域の論理」で構築された都市を「資本の論理」「強者の論理」で駆逐し,国際化・情報化に対応しつつ東京一極集中を進める日本の姿であり,地域の弱者が翻弄される姿でもある。

2.都市計画制度改正の必要性

 現行都市計画法は1968(昭和43)年に高度経済成長期の無秩序市街化(スプロール)を制御するため,1919(大正8)年施行の旧法を廃止・施行し,「市街化区域」「市街化調整区域」区分や開発許可制度を設けている。これにより秩序あるまちづくりが実施されてきたものの,大都市圏人口急増地域の制御を主眼としたため,人口減少で地方都市には上記のような問題が惹起した。人口減少時代に適した都市計画制度への改正が求められる。

 人口減少する知識情報社会の都市(圏)構造は,都心と特色を持った多くのコンパクトな市街地を互恵平等にネットワークする構造を理想とする。それにより現在の通信ネットワークシステム対応型都市構造となる。そこで歩いて暮らせるコンパクトな「身近なまち」を,市町村合併や経済圏・生活圏の拡大に対応した都市構造に再構築しようとしても,現行都市計画制度がネックとなる。地方都市では人口減少で市街化区域の既成市街地要件(40人/ha)を満たさないためコンパクトな「身近なまち」を造るための線引きができない。人口が少ないために歴史・地理的に拠点にすべき地域を市街化区域に指定できず,無秩序な市街地形成を招いている。

 他方,6次産業化を目的とした農産物加工施設等の設置が市街地調整区域でもできない。これらは集落機能の強化や健全な営農環境維持および未線引き地域への新規線引きを難しくしている。

 以上の例のように人口増加時代の市街地拡大制御を目的にした現行都市計画法では,人口減少社会の構築には不適な面が多々存在する。政府がコンパクトなまちづくりを推奨しても,法的問題から実現できない。法律を人口減少社会に適したものに改正すべきである。

3.まちづくり思想・哲学・政策の転換を

 人口減少時代のコンパクトなまちがネットワークする都市では,市街地拡大型でなく既成市街地再開発型のまちづくりが求められる。しかし,東京など巨大都市を除いて,依然として市街地拡大型である。最大の要因は,郊外の安い土地を求める市民,広大な農地や森林を売却したい地主,長期の権利調整などを要する再開発より目に見える開発実績を求める政治・行政関係者の思惑である。それらが相まって良好な既成市街地に空き店舗・空き家・未利用インフラ等の増加で環境劣化を招いた。他方で,新市街地開発による巨額のインフラ投資で都市財政を悪化させている。しかも,立地した大規模商業施設の多くは20年前後で撤退するなど地域が資本の論理に翻弄される例が多い。

 都市計画制度改正は利害関係の衝突により一朝一夕ではできない。そのためには市民一人一人があるべき国のかたち・都市のかたちを考え,それに適した国づくり・まちづくり思想・哲学・政策への転換を図ることが前提となろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3271.html)

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