世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3268
世界経済評論IMPACT No.3268

大分コンビナートにあるユニークな施設

橘川武郎

(国際大学 学長)

2024.01.22

 2023年9月,久しぶりに大分コンビナートを訪れる機会があった。同コンビナートを構成する中心企業はENEOS,レゾナック(旧昭和電工),日本製鉄などであるが,今回は,それらの企業の事業所ではなく,JX金属製錬佐賀関製錬所の大分リサイクル物流センターと,三井E&S(旧三井造船)の大分事業場とを見学した。

 まず向かったのは,大分コンビナートの6号地にある大分リサイクル物流センター。同センターから車で20分ほどの距離にある佐賀関製錬所では,世界最大規模の年産45万トンの銅生産を行なっている。大分リサイクル物流センターは,そこで使用するリサイクル原料の収集・分別・プレス加工に携わる前方拠点となっている。

 見学時にちょうど,銅製品を大分港まで搬出し終えた空荷の大型トレーラーが,大分リサイクル物流センターに入ってきた。その荷台に,あらかじめ回収・分別・プレス加工を済ませた約1トンのプレス故胴が,フォークリフトを使って,整然と積み込まれていく。やがて,大型トレーラーは出発点の佐賀関製錬所に戻っていった。

 リチウム鉱石の産出量ではチリ,オーストラリアの後塵を拝する中国が,製錬部門を掌握することによってリチウムのサプライチェーン全体を支配している事例からもわかるように,戦略鉱物資源の製錬を自国内で遂行することは,大いに国益にかなう。その意味で,JX金属製錬佐賀関製錬所はきわめて重要な役割をはたしているが,大分リサイクル物流センターはさらにその価値を高める。リサイクル原料の含有率を高めることによって,銅製品の純度を向上させるだけでなく,資源の安全保障の確保にも資するからである。

 続いて,大分コンビナートの7号地に立地する三井E&Sの大分事業場に向かった。同事業場では,港湾での貨物の積みおろしに使うガントリークレーン(商品名ポーテーナ)とタイヤ式門型クレーン(同トランステーナ)という,大型機器を生産している。年間生産能力はポーテーナが36台,トランステーナが70台であるが,需要の増加を受けて,後者の比重が拡大しつつあるそうだ。

 三井E&S・大分事業場がとくに力を入れるのは,「ゼロエミッション・トランステーナ」の開発だ。500kVAのディーゼルエンジン発動機を使う従来型(①)に改良を加え,リチウム蓄電池を搭載しディーゼルエンジン発動機を220kVAに小型化したハイブリッド型(②)を開発したうえで,現在はリチウム蓄電池と水素使用の燃料電池とを組み合わせたゼロエミッション型(③)の実証に取り組む。ゼロエミッション電源を使えば,使用時の二酸化炭素の排出規模は,②では①に比べて4〜5割削減され,③では皆無になる。②と③はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実証支援の対象となり,③の実証地としてはアメリカのロサンゼルス港が予定されている。

 世界有数の生産規模を誇る三井E&S・大分事業場からは,世界各地に製品が輸出される。見学当日も,巨大なポーテーナがエクアドルに向かう船台に,まさに乗せられようとしていた。同事業所は,世界のカーボンニュートラル化に貢献しているのである。

 大分リサイクル物流センターも三井E&S・大分事業場も,他のコンビナートには存在しないユニークな施設である。大分コンビナートの懐の深さが実感できた。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3268.html)

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