世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国の出生数の回復は可能か?
(大東文化大学国際関係学部 教授)
2023.12.25
昨年,中国の出生数は956万人で,近代史上最低となり,初めて1000万人を下回った。アナリストによれば,今年の出生数は700万人から800万人にさらに減少する可能性もあるという(Sun 2023a)。
出生数の減少で,大きいのは2人目,3人目の子どもの数だ(Zuo 2023)。国家衛生健康委員会が10月に発表したデータによると,昨年中国の家庭で2人目以降として生まれた赤ちゃんの数は,新生児全体の53.9%を占め,2021年の55.9%から減少した。
2人目以降の子どもが減ると,出生数の全体に大きな影響を与える。上記発表数値から推計すると,昨年の場合,1人目の子どもの数は441万人,2人目以降の子どもの数は515万人で,2人目以降の子どもの数の方が多い。減少幅を見ても,2人目以降の新生児は2021年と比べて78.4万人,初生児の数も27.6万人以上減少しているが,初生児の場合,全体に占める割合としては2人目以降と比べると大きな変化ではない。
出生数の減少は,①婚姻数の減少と平均初婚年齢の上昇,②教育費の高騰による養育負担の増加が指摘できる。
婚姻件数は2013年の1346万組から2022年の683万組へとこの10年で半減した。1980年代後半からベビーブームが下火になり,結婚適齢期の若年層が減少していることも関係している(Nulimaimaiti 2023)。
同時に,平均初婚年齢も上昇している。人口センサスによると,中国の平均初婚年齢は2010年の24.89歳から2020年には28.67歳へと大幅に上昇した。
家庭を持つことを選択したカップルの間でも,子どもを持つことへの意欲は低下している(Nulimaimaiti 2023)。中国の第一子出生率(女性が生涯に産む子どもの平均数)は,2019年の0.7から2022年には0.5に低下している。これは,同じ期間に女性が1人目の子どもを産む平均年齢が26.4歳から27.4歳に上昇したこととも関係している。
若年層も子どもを持つことに消極的だ(Sun 2023b)。政府のシンクタンクである広東省人口発展研究院が6月中旬に実施した調査によると,2000年以降に生まれた回答者の30%以上が子供を持つつもりはない,と答えた(ただしこの調査全体からは広東省は全国と違い,2人目以降を持ちたいという意欲は見られる)。
同調査では,子作りを計画していない人のうち,70%以上が経済的コストが主な理由だと答えている。また,仕事量が多い,世話役がいない,キャリアに支障があるなどの理由もあり,それぞれ約40%の人が挙げている。
というのも,2022年の育娲人口研究所の報告によると,中国は韓国に次いで,子育て費用が世界で2番目に高い(He and Zuo 2023)。中国における18歳までの子供の養育費は,1人あたりの国内総生産(GDP)の6.9倍である(韓国は1人あたりGDPの7.79倍)。この中国の養育コストはドイツの2倍で,オーストラリアとフランスの3倍以上だという(ドイツ,オーストラリア,フランスの養育コストはそれぞれ1人あたりGDPの3.64倍,2.08倍,2.24倍である)。
中国では,今後も婚姻数が減少すると予想され,養育コストの高さから,2人目以降の子どもを持つのは期待できない。同時に若者世代はそもそも子どもを持つことに消極的である。したがって,中国の出生数の回復はないと思われる。
[参考文献]
- He, Huifeng and Zuo, Mandy (2023) ‘China education: parents decry 50-50 shot at academic degree, and they’re rolling the dice on a costly plan B overseas for the kids’, South China Morning Post, 7 Dec, 2023
- Nulimaimaiti, Mia (2023) ‘China population: marriages set to end 9-year run of declines in 2023, but demographic issues remain’, South China Morning Post, 15 Nov, 2023
- Sun, Luna (2023a) ‘China population: annual births expected to hover around 10 million as nation ages’, South China Morning Post, 11 Oct, 2023
- Sun, Luna (2023b) ‘China population: province bucks trend with surveyed interest in bigger families’, South China Morning Post, 18 Oct, 2023
- Zuo, Mandy (2023) ‘China’s birth rate incentives not yet moving the needle for weary families’, South China Morning Post, 13 Oct, 2023
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