世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3222
世界経済評論IMPACT No.3222

揺れる欧州:3つの視点から2024年のEUを読む

平石隆司

(三井物産戦略研究所 シニア研究フェロー)

2023.12.11

 2023年のEUは,長期化する景気停滞,Cost of Living Crisisを背景としたポピュリスト台頭等各国国内政治の動揺,2015-16年以来の難民危機等の荒波に直面した。2024年のEUはどこへ向かうのか,3つの視点から読み解いてみよう。

1.ユーロ圏景気は年央に底打ちも回復は緩慢。独の「一人負け」

 ユーロ圏経済は,①ECBの目標(2%)を上回り続ける物価上昇を背景とした家計の購買力低下や,②急速な利上げによる住宅投資や設備投資悪化,等を背景に2022年後半以降前期比年率でゼロ近辺のプラスとマイナス成長を繰り返し,先進国の中でも低迷が際立つ。

 2024年の景気は,①物価上昇率の低下による実質所得の底打ち,②ECBの利下げへの転換,等を背景に年後半から緩慢ながら持ち直しが進もう。

 国毎に見ると,域内最大の規模を持つ独の停滞が顕著で,牽引役不在の状況が続く。独は,①ウクライナ危機前の対露エネルギー依存度の高さを背景とした危機後のコスト急上昇,②対中貿易・投資依存度の高さを背景とした,中国経済低迷長期化と対中ディリスキングによる押し下げ,等の構造的要因に下押しされ,三党連立政権の足並みの乱れにより政策面からの下支えも期待薄。独は,2023年マイナス成長の後,2024年もゼロ%台半ばの低成長と,「一人負け」が続く。

2.右派ポピュリスト台頭下で迎える「政治の季節」

 2022年の「イタリアの同胞」を中心とするメローニ伊政権誕生,2023年の蘭総選挙におけるウイルダース党首率いる自由党の第一党への躍進等,欧州で右派ポピュリストが躍進している。

 背景にあるのは,インフレと景気低迷長期化による生活困窮と,前述した難民急増へのEU各国民の危機意識による,各国政府と「ブリュッセルの官僚」への不満の高まりである。

 2024年は,こうした潮流下,ポルトガル,ベルギー,オーストリア等の総選挙に加え,EU理事会と並ぶ立法機関である欧州議会選挙(5年毎)が実施される。世論調査によれば,ポルトガル,オーストリアでは右派ポピュリスト政党を含む政権成立の蓋然性が高く,欧州議会選では右派ポピュリストであるECRやIDが大幅に議席を増やす一方,現議会で1~3位を占める中道右派EPP,中道左派S&D,中道リベラル派Renew Europeが議席減,環境重視のGreen/EFAは大幅議席減が予想される。

 こうした右派ポピュリストの勢力伸長は,①気候変動対策,②EU拡大・統合深化,③対ウクライナ支援の3点でEUの政策を変化させうる。

 まず気候変動対策だが,右派ポピュリストは化石燃料からの移行コストを問題視し,反グリーンを掲げる。欧州議会の最大会派EPPが,気候変動対策強化に対するモラトリアムの要求等,軌道修正を図っていることも気がかりだ。

 欧州グリーンディールはFIT FOR 55パッケージの成立等順調に進んできたが,欧州環境庁の試算では,2030年に1990年比で55%の温室効果ガス排出削減を目指す目標の達成には不十分(7%ポイント不足)で,今後対策のさらなる加速が必要だ。運輸,農林業部門等での追加対策の必要性に加え,2024年には2040年の温室効果ガス排出削減目標設定も控えるが,前述した環境変化を踏まえれば欧州グリーンディールのスローダウンは不可避だろう。

 EUの拡大・統合深化について,EU懐疑派で自国優先の右派ポピュリストは否定的だ。2023年12月の欧州理事会でウクライナとモルドバの加盟交渉入りが議論されるが,ハンガリー等一部加盟国が反対する可能性があり,例え認められたとしても2024年中の進捗は期待薄だ。拡大と表裏一体の関係にあるEUの効率化のための「特定多数決」拡大等の改革も進むまい。

 右派ポピュリストは,ハンガリー・オルバン政権に代表される様にウクライナへの軍事・財政支援に消極的である場合も多い。米議会におけるウクライナ追加支援協議が難航し,EUの支援も滞れば現在膠着中の軍事バランスを露有利に変化させる恐れもある。

3.ディリスキング下の対中関係

 近年EUの対中姿勢は,ウイグル問題,台湾情勢,ウクライナ侵攻を巡る対露姿勢への不信感等から厳しさを増しているが,中国を「経済的競争相手」であり,「体制的ライバル」であると同時に,「交渉相手」と位置付け,経済・投資関係が深く,グローバルな課題を解決する上で必要な重要パートナーと認識する。

 そのため,あくまで対中「デカップル」ではなく,重要原材料法やネットゼロ産業法等を活用したサプライチェーン多角化や産業基盤強化を通じた対中依存低下による「ディリスク」を目指している。

 欧州委員会は,中国製EVに対する反補助金調査を開始したが,仏が積極的な一方,中国の報復措置を恐れる独が消極的等,EU加盟国間の中国に対する立ち位置も様々だ。中国側も米国への対抗上EUとの関係悪化は回避したく,報復措置の打ち合いの様な結果とはならずに最終的には何等かの妥協が図られる可能性があろう。

 以上の通り,EUは強い逆風に直面している。これらに適切に対処するには加盟国間の分断の克服が必要である。結束を取り戻し課題を克服できるのか,できずに迷走を続けるのか,2024年のEUは長期的な方向性を左右する正念場を迎えよう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3222.html)

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