世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3204
世界経済評論IMPACT No.3204

ASEANの税関統合の進展状況

石川幸一

(亜細亜大学 特別研究員・ITI客員 研究員)

2023.11.27

 税関業務の円滑化は自由で円滑な物品の貿易の実現に関税撤廃同様に重要である。2015年のAEC2015創設時には,①新たな制度が導入されていない国がある,②関税番号が国により違う,③事前教示制度が実務的には利用できない,③ペーパーレス化が不十分,などの問題点が指摘されていた。ASEANは,現在2025年を目標年次とするASEAN経済共同体(AEC)2025の実現を目指しており,AECブループリント2025を実施している。物品の自由な移動では,貿易自由化を重視したAEC2015に対してAEC2025では貿易円滑化が重視されている。税関統合(注1)はその重要な分野であり,ASEANを取り巻く国際環境が厳しくなる中でペースは緩やかであるが,着実に実施されている(注2)。8年前に企業に指摘されていた問題は段階的に解決されつつある。

ASEAN税関貨物通過システム(ACTS)

 ASEANの税関統合は,2015年5月のASEAN関税総局長会議で承認された税関発展戦略的計画により進められてきた。中核的なプログラムはASEAN税関貨物通過システム(ASEAN Customs Transit System:ACTS)であり,EUの支援(ASEAN Regional Integration Support from the EU Plus: ARISE Plus)を受けて実施されている。ACTSは,ASEANにおける3か国以上での越境輸送においてトランジット通関を行うための制度である。越境の際の出入国,通関,検疫などの手続きを1回の手続きとするシングルストップ化,窓口を一本化するシングルウィンドウ化などを決めており,陸路輸送の通関など越境手続きの簡素化,時間短縮,コスト削減に寄与すると期待されている。

 ACTSはASEAN通過貨物円滑化に関する枠組み協定(ASEAN Framework Agreement on the Facilitation of Goods in Transit:AFAFGIT,2000年発効)の第7議定書(2015年調印)に基づき実施される。第7議定書は2019年初時点で全10カ国が批准していた。ACTSは,タイ,マレーシア,シンガポールを結ぶフェーズ1とベトナム,カンボジア,ラオス,ミャンマーを結ぶフェーズ2に分けて,2016年11月からの試験運用に続き,2020年からカンボジア,ラオス,マレーシア,シンガポール,タイ,ベトナムの参加により実施されていた。現在,ブルネイ,インドネシア,マレーシア,フィリピンを含むボルネオ回廊でのACTS実施のフィージビリティ・スタディを行っている。

認定事業者(AEO)制度

 認定事業者(AEO)の促進とAEOの相互承認のための協力メカニズムを進めることは2012年ASEAN税関協定の第35条で規定されている。税関が法令遵守に優れた事業者を認定し通関手続き上の便宜を与える認定事業者制度(AEO)はASEAN各国でも導入されており,2023年時点で全ての加盟国が導入している。AEO制度の相互承認をASEANで行う「ASEAN認定事業者(AEO)相互承認取決め(AAMRA)」については,2023年10月時点で全加盟国が調印している。また,先行する6か国による6か月のAAMRAのパイロット運用が2023年中に開始され,2024年から全面運用の予定である。

ASEANシングルウィンドウ(ASW)

 ASEANシングルウィンドウ(ASW)による原産地証明の電子的交換(ATIGA e-Form D)については,ブルネイが2019年4月1日に参加し6カ国で実施されていた。カンボジア,フィリピン,ラオスの3か国の作業も進展しており,2020年1月にはASWは9か国(公式には10か国)で導入され,ATIGAの原産地証明書(e-Form D)の電子的交換が始まった。遅れていたラオスは2020年8月28日に正式に導入し,10カ国による運用(live operation)が始まった。ASEAN事務局によると,2021年のASWによる原産地証明の電子的交換は90万件を超えている。

 ASWによるASEAN税関申告書類(ASEAN Customs Declaration Document: ACDD)の電子的交換は2020年12月にカンボジア,ミャンマー,シンガポールの間で始まり,2021年にマレーシアとタイが参加し,2022年11月にフィリピンが参加した。現在,9カ国により導入されており,残るラオスについては2023年中に導入の見込みである。

 電子衛生植物検疫証明(e-Phyto Certificates)の電子的交換はタイとインドネシアで2022年中に開始され,2023年中にフィリピンが参加することになっている。電子動物健康証明(e-AH)と電子食品安全証明(e-FS)についても議論が始まっている。また,日本,中国,韓国,米国と通関書類の電子的交換を行うことについて協議が進展している。

ASEAN統一関税品目コード(AHTN)

 HSコードがHS2017からHS2022に改定されたことに従い,ASEAN統一関税品目コード(AHTN)が2022に改定された。カンボジア,インドネシア,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイがすでにAHTN2017からAHTN2022への移行を実施しており,他の国も2022年末までへの移行を進めてきており,すでに全ての加盟国が移行を終えている。また,カンボジア,インドネシア,ラオス,マレーシア,ミャンマー,シンガポールがATIGA関税削減約束表をAHTN2022に移行した。

[注]
  • (1)税関統合(Customs Integration)の内容は,ASEANレベルの税関協力と税関業務の円滑化である。
  • (2)ASEAN(2023), Chairman’s Statement of the 43rd ASEAN Summit, Jakarta , Indonesia,5 September 2023. およびASEAN(2023), The 55th ASEAN Economic Minister’s (AEM) Meeting, Semarang, Indonesia,19 August 2023.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3204.html)

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