世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3182
世界経済評論IMPACT No.3182

ガザ・イスラエル戦とアメリカ

坂本正弘

(日本国際フォーラム 上席研究員)

2023.11.13

1.ハマスの攻撃とイスラエルの「自衛」反撃

 ハマスの10月7日のイスラエル攻撃は,その規模と速度で世界に衝撃を与え,1200名の殺戮と200名の拉致は,イスラエルを激怒させ,国際世論の非難の対象となった。しかし,その後のイスラエルの「自衛権」行使のガザへの攻撃は,天井なき刑務所に閉じ込められた200万人に及ぶ無辜の民を恐怖に陥れた。死者は1万人を超え,食料,医薬品,燃料を遮断された壁と瓦礫の中で悲惨な状況は,まさに地獄の様相であり,見るに堪えない。10月末からの地上侵攻は事態を一層悪化させている。イスラエルは自衛というが,自衛であれば限界がないのか? 国際世論は,イスラエルの過剰自衛に反対・非難の方向に動いている。

2.ガザ休戦への国際的要求

 グテレス国連事務総長は,10月24日の安保理で,ハマスの攻撃も,56年に及ぶパレスチナ人への圧政と無関係ではないとし,即時休戦を訴え,イスラエルの反感をかった。

 国連の安保理が有効な決定を出せない中で,10月27日,国連特別総会が開かれ,人道休戦を求める決議が,賛成121で,採択された。反対は,米国,イスラエルなど14か国,棄権は44か国だが多くの欧州諸国,日本,韓国などである。賛成国は,提案者の中東諸国,アフリカ,羅米,アジアなどのグローバルサウスの諸国に,中国・ロシアグループが加わった。ハマス非難を含んだカナダ案がこの決議の前に評決され,88国が賛成したが,2/3に達しなかった。総じていえば,イスラエルを軸に,米・欧の西側に対し,中東・グローバルサウス,中露が勝利したといえるが,強い反イスラエルの動きが見える。

3.高まる反イスラエルの動き

 反イスラエルの動きの盛り上がりは国連のみでない。中東諸国では反イスラエルのデモの高まりがあるが,ロンドンやパリなど,西欧の国のみならず,米国でも,反ユダヤの動きが高まり,ユダヤ人への個人攻撃すら見られる状況である。

 このような反ユダヤの高まりの原因は何かだが,第1に,イスラエルが圧倒的に強い戦力を行使して,壁に囲まれた200万人も生存を脅かしている状況があるが,第2に,メジアの発展が,この非人道的状況を世界に即時に伝えいる実態がある。第3にユダヤ人虐待の歴史,特に,ナチによるホロコストが,ユダヤ人への同情を強めてきたが,第二次大戦も遠くなり,このような同情を風化させたうえ,イスラエルの過剰な自衛が反感を生んでいよう。ユダヤ支持の強い米国でも,民主党左派やイスラエル系の若者にも見られる反感である。

4.ガザ戦争の波紋

 第1は,イスラエルへの反感は,これを支えるアメリカへの反感となる。第2に,ガザ・イスラエル戦争はロシアの負債を薄め,中露枢軸を利した面がある。10月17日,18日の中国主催の一帯一路会議は,当初,首脳級の参加も少なく,低調なことが予想されたが,ガザ・イスラエル戦争を受け,米国のダブルスタンダードを攻撃することで,国際刑事裁判所から追及されるプーチン大統領は面目を改め,中露枢軸は強まった。

 第3に,ウクライナへの関心が分断され,米欧州からの援助削減を憂慮する状況である。

5.米国のジレンマ

 米国はかかる状況の中,難しい選択を迫られている。イスラエルは米国の国内問題だといわれ程,米国は国連でも拒否権を多発し,イスラエルの権益を守ってきた。今回の事態でも,ブリンケン長官は,10月13日,イスラエルに乗り込んだが,ユダヤ人の一人として来たと宣言している。バイデン大統領は18日イスラエルを訪問し,要人とハグの上,アメリカはイスラエルの自衛権を認め,武器援助を約束した。米国が派遣した,2個の空母打撃団は紛争の拡大を防止する意図だとするが,イスラエル支持でもある。ただし,すでにイスラエルの過剰自衛の批判の出る中,大統領は,米国が9.11以降怒りに任せて,アフガン,イラクに侵攻したのは間違いだとし,イスラエルに自重を求め,地上侵攻には消極的である。

 イスラエルはしかし,攻撃の再現を防ぐためだと,ハマス掃討を唱え,ガザ攻撃を強めている。10月末から,地上侵攻を始め,ガザを北部と南部に分断し,現在,ガザ北部はハマス拠点だとして,徹底的破壊を行っている。南部は,北からの避難民を含め人口が膨れ上がったが,食料,医療品,水が欠乏し,燃料は止められる中,イスラエルの攻撃に,死の恐怖の生活となっている。

 かかる中で,Blinken長官は10月31日,イスラエル援助140億ドルを含む予算案公聴会を上院で行ったが,傍聴者から,イスラエルの虐殺を支持するのかとの抗議が続出した。内外のイスラエル非難の高まりにバイデン政権も戦闘の一時停止を主張している。Austin国防長官は,毎日,イスラエルGallant国防長官と連絡しているが,必ず,人質解放,戦争法に従った作戦と市民の保護,人道的援助を要求している。しかし,イスラエルの厳しい作戦に変化は見られない。

6.Measheimer教授の卓見

 Measheimerシカゴ大教授は,小生と佐藤明大教授で日本に招待したことがあるが,攻撃的現実主義を標榜する。2007年の著書で,イスラエルロビーは米国外交に不当に大きな影響を与えているが,これは米国にも,イスラエルにもよくない。パレスチナ問題の解決は2国共存しかないが,イスラエルはその道をふさぎ,困難に陥るとの卓見を示していた。最近のYouTubeでも,イスラエルは,パレスチナを飲み込む「大イスラエル」政策をとっているが,これはかつての南アのように国内でのアパルトヘイトと国際的孤立を強め,大きな困難に陥るとする。また,西側のNATO拡大はロシアを追い詰めたとするが,今後,ウクライナは勝てない以上,ロシアと早急に停戦交渉に入るべきとする。

7.日本の対応の消極性

 日本は国連特別総会の人道停戦の評決で棄権を選択した。岸田政権の当初の姿勢は双方に自制を求めるもので,曖昧と評価されたが,これは日本でのパレスチナへの同情,西欧諸国よりも低いイスラエル支持を反映している。フランスと同じく,人道停戦支持の評決をとるべきではなかったか? 11月上旬の日本議長のG7外相会議のコミュニケはハマスを非難し,戦争の一時休止を唱えたが,米国の主張のままだ。人道主義・即時停戦ではないか?

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3182.html)

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