世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3179
世界経済評論IMPACT No.3179

都市の人・モノの移動空間再設計を中間的都市交通で:MaaS時代への移行を加速させよう

瀬藤澄彦

(国際貿易投資研究所(ITI)客員 研究員・元帝京大学経済学部大学院 教授)

2023.11.13

 米国の経済学者ジェレミー・リフキン(Jeremy Rifkin)は,著書「限界コスト・ゼロの社会」(The Zero Marginal Cost Society)のなかで,資本主義社会の後に訪れる新しい経済社会とは「分かち合い協働する経済」であると指摘している。欧州委員会のフラッシュ・ユーロバロメーター438号によると,フランスはアイルランドも上回る欧州随一のシェアリング経済の国である。確かにシェア経済促進のためのクラウド・ファンディングや政府のスタートアップ支援政策,ベンチャー・キャピタル基地などの取り組みは日本をかなり凌駕する。古い町並みだがニュービジネスやサービスの新業態などはその取り組みに熱意が見られる。

 昨今,日本で急浮上してきたライドシェア構想の行方は,日本の経済社会の将来を占う重要な経済政策の課題のひとつである。生産要素である労働力が確保できず,ヒト・モノ・サービスの円滑な物流と交通に支障をきたす恐れが出てきた。タクシー運転手の不足によって,都市ではタクシーがつかまらない,農村部では鉄道路線廃止によって車の運転もできず移動ができない高齢者を多く抱え問題は深刻である。産業物流にブレーキがかかる由々しい事態である。高齢化と少子化が叫ばれて久しい。わが国の都市でも新たな交通システムMaaS(Mobility at a Service)が,農村ではデジタル田園都市構想がその解決の切り札として導入されるはずであったが以降進展がない。

 都市の交通手段は,日常生活の基本的活動を,住む,働く,憩う,動くに大別し,それを営なむ場である空間を住宅,オフィス,工場,レストラン,公園,娯楽施設などで捉えた場合,3つの交通手段に分類することができる(東大名誉教授・太田勝敏)。すなわち,①私的交通:自転車,乗用車,バン・SUV,スクーター,②公共交通:バス,タクシー,モノレール,地下鉄,電車,動く歩道,ケーブルカー,エレベーター,エスカレーター,に加えて③として私的でも公共でもない交通手段として相乗りカー,レンターカー,カー・ライドシェア,オンデマンド交通,などが世界の都市における中間的交通手段として,その多様性と展開の可能性が言及されている。乗用車を中心とする私的交通と,電車,地下鉄,バスなどの公共交通の間のこのような中間的公共交通手段が近年,シェアリング・エコノミー時代到来というなかで重要になってきた。多くの都市はコンパクト・シティ政策推進の立場から自動車以外の公共交通機関,とりわけトラムウェー(路面電車)が費用,環境汚染,使いやすさなどの点から切り札として登場してきているが,スマート・シティ・モデルの到来によって都市交通はデジタル技術に軸足を置く移動手段に変化してきた。そこでは移動手段をリアルタイムで最適ものとして提案し,予約,発券,決済が一括して行われる。さらに自動運転が一般化すればコロナなどの感染症も回避できる。そして自動車自体は所有するものから利用するものに変化するようになる。私的交通と公共交通の間の中間的公共交通がコロナ後のスマート・シティにおいて期待される所以である。

 各国で,ライドシェアの普及も加速した。ドライバーと同乗者をマッチングさせるプラットフォーム企業としてはデリバリーではUberが世界で800以上の都市に進出するなど躍進,中国の滴滴出行(ディディ チューシン)などがライバル企業と各地でしのぎを削る。世界的な普及の背景にスマホによる正確な需給マッチング,運転者と同乗者が相互評価するシステムへの安心感,乗車前にアプリで行き先や所要時間・料金を共有できる利便性の高さなどを競い合っている。ビジネスモデルも日本と異なり米国では一般ドライバーが自家用車を用いて有償で同乗者を輸送することも可能である。ライドシェアのドライバー数は2017年から2022年にかけ世界中で430万人から860万人に倍増したと推計されている。日本国内でのライドシェアの普及状況は海外と比べて大きな隔たりがある。日本では一般人が自家用車を用いて有償で他人を運送することは,「白タク」行為となり違法行為にあたる。海外のようにドライバーが運賃を受け取れるライドシェアは法律で一刻も早く認められなければならない。さらに単に自動車という伝統的な移動手段に加えて,2020年の都市封鎖やコロナ感染においてもっとも突発的に表面化してきた現象は多くの欧州の都市における自転車ブームと指摘する都市専門家は多い。公共輸送手段を避けるために多くのひとは自転車に目を付けた。すでに従来からの狭い自転車用レーンは最低でも幅2メートルある自転車専用レーンに姿を変えつつある。しかもこのような自転車ブームは危機の後も存続している。急速に広まった自転車専用レーン設置の動きは長期的な変革を狙った都市計画の考えである。さらにパークレット(parklet)やストリータリー(streatery)という道路をひとびとの利用する場所にしようとする運動も同じようなトレンドである。パークレットは歩道に隣接する道の一部をひとびとのためにパブリックな空間として利用することである。欧米ではかねて歩道の隣接道の一部をベンチ,駐輪場,アート,植栽などに利用することがあったが,コロナはこの動きを加速させた。また道路をレストランやカフェの野外席とする動きもさらに多くなっている。

 公共空間を積極的に創造していくという考えは,コロナ禍で閉店などを余儀なくされる状況に抗う運動としても評価されるであろう。コロナ危機で見えてきたのは都市における人の移動空間を再設計する必要性である。欧州ではパリを始め「スロー都市交通」運動(Slow Streets Movement)が急速に盛り上げってきた。この考えは「安全な通り」(Safe Streets),「健康的な通り」(Healthy Streets)とも呼ばれて交通の量と速度を最低限に低下させることによってひとびとが安全に歩行し,安心して自転車に乗ることができることを意味しているのである。この都市交通の全般的な減速を呼び掛ける運動には実は客観的な事実もある。実証データでは,都市では自動車や電車での移動に依存しているひともいるが,自分の街のなかでは歩いたり,自転車に乗ったりすることで十分に事足りるというのが大多数のひとが出した結論である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3179.html)

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