世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3097
世界経済評論IMPACT No.3097

出光徳山バイオマス発電所を訪ねて:周南コンビナートのカーボンニュートラル化への道

橘川武郎

(国際大学 学長)

2023.09.04

 2023年4月,山口県周南市にある出光興産徳山事業所を訪れ,出光徳山バイオマス発電所を見学する機会を得た。22年12月に竣工したばかりの建屋は意外に大きく,瀬戸内海を背景に屹立していた。

 出光徳山バイオマス発電所の発電用のボイラーは循環流動層(CFB)型で,発電出力は5万kW。そのうち6700kWが自家消費されるため,送電端出力は4万3300kWとなる。年間発電量は,一般家庭約10万世帯分の約3.4億kWhに達する。

 年間約22万トン使用する燃料は,約7割が木質ペレット,約3割がPKS(パーム椰子殻)で,毎日約40台のトラックによって,それぞれの貯蔵槽に運ばれる。大きめの貯蔵槽に入れられたPKSを木質ペレットの貯蔵槽に運び,そこで両者を混合して,ベルトコンベアで燃料供給設備に送り込む。

 出光徳山バイオマス発電所は,FIT(固定価格買取制度)で運用されており,自家用分以外の発生電力は,特別高圧ケーブルによって,中国電力の変電所に送られる。その間をつなぐ総距離約3.2kmの地中送電線は自営線であり,出光興産が敷設した。地中送電線は,JRの新幹線・在来線や国道2号線をまたぐ形になっている。

 出光徳山バイオマス発電所の使用燃料については,輸入している木質ペレットやPKSに代えて,将来的には,山口県産の木質バイオマスに置き換える計画がある。また,FITF期間終了後には,同発電所の発生電力が周南市およびその周辺で使われる,「エネルギーの地産地消」的状況が生まれるかもしれない。そうなれば出光徳山バイオマス発電所は,22年2月に「周南市脱炭素社会形成取組指針」を策定した周南市のスマート・コミュニティ化に,大いに貢献することになるだろう。

 すでに出光興産は,徳山事業所を舞台にして,周南コンビナート全体の「CNX(カーボンニュートラル・トランスフォーメーション)」を推進するために,活動を積極化している。同社は,21年6月,IHIとともに,「出光・徳山事業所の季節設備を活用したアンモニアサプライチェーン構築の共同検討と開始」というプレスリリースを行った。さらに22年8月には,東ソー,株式会社トクヤマ,日本ゼオンと連名で,「「周南コンビナートアンモニア供給拠点整備基本検討事業」が経済産業省・資源エネルギー庁の「非化石エネルギー等導入促進対策費補助金(コンビナートの水素,燃料アンモニア等供給拠点化に向けた支援事業)」に採択 —国内初,年間100万トン超のカーボンフリーアンモニアサプライチェーンの構築検討を開始します—」と題するニュースリリースを発表した。見学した当日も,出光興産徳山事業所では,カーボンフリーアンモニアの受け入れ,ナフサ分解装置の燃料へのアンモニア混焼を進めるための準備が始まっていた。

 周南コンビナートでは,東ソーや(株)トクヤマが,石炭火力発電所を稼働させている。将来的には,これらの発電所の燃料も,アンモニアやバイオマスに置き換えられていくことだろう。出光徳山バイオマス発電所だけで,石炭火力発電に比べて,年間で約23〜30万トンの二酸化炭素排出削減を実現すると聞いた。バイオマスと燃料アンモニアの活用によって,カーボンニュートラル達成をめざす周南コンビナート。そのユニークなアプローチは,全国的なモデルとなるに違いない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3097.html)

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