世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2953
世界経済評論IMPACT No.2953

アフターコロナの国際ビジネスの取り組み

岸本寿生

(富山大学 教授)

2023.05.15

 日本では,新型コロナウイルス(COVIT-19)が感染法上の5類に位置づけられ,入国審査(水際対策)も大幅に緩和された。外国でも同様な状況にあり,余程のことがないと後戻りはないだろうと推察される。いよいよアフターコロナの到来である。ただし,従前と変わらない行動でいいのかというと,一概にはYESといえないだろう。新型コロナウイルスの影響を振り返り,来るべき不測の事態への適応力を身につけなければならい。

 本年3月にマレーシアの日系企業数社を訪問する機会を得た。そこでの調査等を基に,アフターコロナに向けて,海外進出を行っている企業が取り組むべき課題を考えてみる。

1.現地の政府,地方自治体,関係団体との関係性の再構築

 訪問企業では,新型コロナウイルスによる困難な出来事の一つに「事業所のシャットダウン」を挙げている。新型コロナウイルスが蔓延して数ヶ月から半年のうちに,事業所またはそのエリアが突然にシャットダウンされ,出勤できない状態が続いた。シャットダウンの制限付きの解除について,政府や地方行政との交渉や関係団体との連携のあり方で差が出たという。平時になりつつある時にも,現地の諸機関との関係を構築し,特に行政への交渉窓口を確立することが求められる。

今回のような有事の時の即応体制が整っているかの確認も必要であろう。

2.海外工場,事務所のマネジメント体制の見直し

 新型コロナウイルスにより,人の往来が困難になった。派遣社員を一斉に引き上げたり,他方タイミングが悪く帰国ができなかったり,また,交代要員が派遣できなかったりした。そして現地の工場や事務所のオペレーションに支障を来す事態になった。それでも,オペレーションが継続できたのは,現地のキーパーソンとなる従業員による功績が大きかったという話を聞いた。

 この期間の現地マネジメントの有様を検証し,アフターコロナにおける日本人派遣社員の見直しとより一層の現地化の推進などを考える必要性がある。この出来事が,現地経営の再構築を考える契機と捉えなければならい。

3.長期ビジョン経営の取り組み

 グローバルサプライチェーンの一時期の混乱から落ち着きを見せてきているが,特定分野での部品の納期遅れはまだ解消の目処がたっていない。大量の受注残や部品供給不足による半製品の在庫などは一朝一夕では解決できない課題である。さらに,2023年には,アフターコロナの景気回復が早くもピークアウトとなる見込みである。マレーシアのGDP成長率は2022年8.7%であったが,2023年は4~5%の見込みである。タイでも2023年の大幅な成長は見込めない。このような状況でも,ASEANの多くの国では,「従業員の賃金上昇」や「調達コストの上昇」が上位の経営課題となっている。

 現状としては,アフターコロナになり景気の過熱への対応が迫られているが,景気回復は長く続くものはないかもしれない。新型コロナウイルスのダメージの回復を待つまでの時間的な猶予もなく,景気変動に耐えうる体質変換が求められる。

 最近,「パーパス経営」や「サステナビリティ」などのワードがしきりに言われるが,まさに,長期ビジョンの経営が求められている。

 新型コロナウイルの影響は計り知れないものがあったが,これを契機に国際ビジネスのあり方をミクロ(現地法人),マクロ(全社)の両方から見直す契機とするべきであろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2953.html)

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