世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2456
世界経済評論IMPACT No.2456

VUCA時代のグローバルバリューチェーン

岸本寿生

(富山大学 教授)

2022.03.14

 2021年11月に開催された国際ビジネス研究学会全国大会の統一論題は「グローバルバリューチェーン(GVC)はどこに向かうのか」であった。また,2022年6月に開催予定の日本貿易学会全国大会の統一論題は「変容するグローバルバリューチェーンとビジネス展望」である。国際ビジネスの喫緊の課題としてグローバルバリューチェーンの見直しが問われている。

 新型コロナウイルスは,ウィズコロナ・ポストコロナと言われる局面になりつつあるものの,従前と同じ状況になることも考えにくい。その上,ロシアによるウクライナ軍事侵攻が起こり,グローバルなビジネス環境は一向に安定化しない。VUCA(「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」,「Ambiguity(曖昧性)」)と言われて久しいが,企業に突きつけられる課題はあまりに多く複雑である。

 米国政治リスク調査会社のユーラシア・グループ研究所(代表イアン・ブレマー)の2022年の10大リスク予想の第1位は「ゼロコロナ政策」である(注1)。中国は,これまでゼロコロナ政策を掲げ,新型コロナを押さえ込んできた。この指摘は,感染力の高い変異株の出現や北京オリンピックなどのイベントを契機に,新型コロナの感染流行によりゼロコロナ政策にほころびが出る懸念であると捉えられる。脱コロナで他国に先駆けて回復した中国の市場や生産が再び縮小する可能性は否定できない。他方,米国でも,新型コロナによる作業員不足や景気回復による輸入の急増により,ロサンゼルス港などの港湾処理能力に影響を及ぼし,世界的な海上輸送網の目詰まりを起こしている。コンテナ不足やコンテナ運賃の高騰・高止まりは世界的に広がり,先が見通せる状況ではない。

 その上,2022年2月21日にはじまったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は,本コラム執筆中ではその終息地点は見えてこない。しかし,軍事侵攻だけではなく,対ロ経済制裁,さらには,ロシア経済の破綻可能性など戦中・戦後のグローバル経済への影響は計り知れない。

 その中で着目したいのが,近年の中国の主要政策である一帯一路のユーラシア大陸を横断する陸上(鉄道)物流の「中欧班列」である。2020年実績で年間1万2000便以上の列車が中国と欧州を往き来する。海上物流の輸送時間が延び,運賃も上昇する傾向であり,中国と欧州の物流ルートでは「中欧班列」に関心が寄せられてきた。しかし,その主要ルートは,ロシアやベラルーシを経由してポーランドから欧州に向かうものである。今後,ロシアやベラルーシからの輸送に何らかの障害が起こることは十分予見される(注2)。

 近年,製品・部品の国際的なグローバルバリューチェーンの空間・時間が延びているこのようなビジネス環境下では,いかなる企業も部品・製品の調達や供給,商品需要のシャットダウンが生じるリスクをもたざるを得ない。自社のグローバルバリューチェーン上の位置を認識し,その目詰まりのリスクを推測する必要がある。

 そのためには,グローバルバリューチェーン全体を鳥瞰図的に認識した上で,上流工程の原材料,部品や副資材の調達,下流工程の製品の販売・供給および在庫の見直しをする必要がある。例えば,部品調達の際に長い納期を必要とするもの,海外から1社購買をしているもの,また販売先からの発注時期と納期などを把握することである。原材料や部品の価格動向も無視できない。そして,グローバルバリューチェーンのネックのプロセスを発見し対応するため,購買先の複数化,製品・部品在庫の見直しをしなければならない。モニターの世界的メーカーEIZOの実盛社長は「部品の常時2ヶ月の在庫を持ち,代替部品の調達ルートの確保」を言ってはばからない(注3)。VUCA時代のビジネスでは,公式と思われたジャスト・イン・タイムに代表される在庫レスや短納期といった方程式が成立しなくなるかもしれない。さらに,企業は,調達困難な部品などを内製化しなければならない場合は,垂直立ち上げ能力も求められる。

 新型コロナやロシアの軍事侵攻の出口は見えるようで見えない。コロナ禍でやるべきことは無数にあるが,優先順位をつけて取り組むことが肝要である。

[注]
  • (1)日本経済新聞2022年1月4日 3面を参照。本紙では,「No Zero Covid 」を「中国のゼロコロナ失敗」と解釈している。また,「Special Report イアン・ブレマー 中国リスクにどう立ち向かうか」『Newsweek』2022年2月15日号,pp.18-27.を参照されたい。
  • (2)日本経済新聞2022年3月6日 1面を参照。
  • (3)日本経済新聞2020年5月20日 北陸地方経済面を参照。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2456.html)

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