世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2888
世界経済評論IMPACT No.2888

クルマの電動化における蓄電池の果たす役割と課題

福田佳之

((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)

2023.03.20

2023年に入ってEV販売が低下

 2023年に入って欧中主要国でのバッテリー電気自動車やプラグインハイブリッド車などEV販売が急減している。中国の2023年1月のEV販売は40.8万台と前年比から6%減少しており,ドイツは2.7万台と前年比3割以上減少した。これらの国では今年になってEV購入支援が削減されたことが大きい。Rystad Energyによると,23年1月のEV販売額は,駆け込み需要が生じた2022年12月からほぼ半減の水準(67.2万台)まで落ち込んだと報じている。

 ただし,当局にとって購入支援減額は既定路線だろう。EVの普及が進めば,購入支援などの補助金を減らし,燃費等の規制強化でさらなる普及を後押しする。中国では自動車生産・輸入事業者に対して平均燃費とNEV(新エネルギー車)台数を基準としたクレジット取得を義務付けるダブルクレジット制度を導入しており,EUでも2023年2月「Fit For Package」の中で2035年以降の乗用車・小型商用車における内燃機関車の販売禁止を欧州議会で正式承認した。一方,米国では制定したインフレ抑制法においてEV購入支援が実施される。したがって,世界のEV販売は,多少の波を受けながらも拡大が進んでいき,クルマの電動化は進展していくだろう。

蓄電池の課題克服がEV普及を左右

 ではクルマの電動化の進展に死角はないのかというとそうではない。最大の懸念材料はEVに搭載する蓄電池にある。EV生産における蓄電池のコストの割合は三分の一を占め,EVの生産等に占める蓄電池の重要性は無視できない。

 今後の蓄電池生産について需要増に伴い増産される見込みである。2020年から25年にかけての世界主要地域の蓄電池の生産計画は,経済産業省によると,欧中を中心に2020年の300GWh超から3,000GWh弱まで増設される。これは,40KWhの蓄電池が搭載されるバッテリー電気自動車が年間7,500万台生産可能となる規模である。

 だが,増産には4点障害があることに注意する必要がある。まず,蓄電池の高い生産コストである。これまで蓄電池の価格は低下してきたが,最近になって下げ止まり,若干だが上昇に転じている。蓄電池のコスト構造は,レアメタル等で構成される正極や負極などの材料コストが三分の二を占めていて,持続的な需要増に伴う材料価格上昇で蓄電池生産のコストアップが生じている。

 次に,蓄電池の安全性確保や化石燃料劣位といった技術的な課題がある。安全性について過充電や外部衝撃で破損や発火の可能性が指摘されるほか,今後増加する蓄電池の廃棄問題がある。化石燃料に比べてエネルギー密度の低さ,充電時間の長さ,経年劣化による容量・出力低下,そして蓄電池の重さそのものも課題として挙げられる。

次世代電池開発と蓄電池リサイクルの動向に注目

 そして,生産段階でのCO2の大量排出がある。レアメタルなどの金属採掘から製錬,精製まで大量のエネルギーの投入とCO2の排出が不可避である。そのため,EVの生産に伴うCO2排出は,内燃機関車の生産時と比べて最大2倍まで増えると見られる。

 最後に,脆弱なサプライチェーンがある。レアメタルの埋蔵などが特定国に限定されていて国際政治経済の変動によっては原料調達や生産が不安定になるだけでなく,米中対立による影響や「責任ある鉱物調達」の流れもあって,経済的な要因だけで蓄電池生産を決定するわけにはいかない状況にある。

 こうした課題に対応するために,いくつか取り組みが行われている。具体的には,生産コスト引き下げや性能面での技術的な課題の克服については次世代電池の開発,CO2の排出抑制やサプライチェーンの強靭性確保については蓄電池リサイクル等の取り組みが挙げられる。今後,これらの課題克服に向けた動きについて我々はウオッチしていく。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2888.html)

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