世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2837
世界経済評論IMPACT No.2837

ASEANの発展で東アジアの平和が強化される

清川佑二

(元 日中産学官交流機構 理事長)

2023.02.06

中国の突然の失速と展望

 昨年の今頃は,中国はコロナを克服し高成長を達成して,体制の優位性を誇っていた。8.1%もの経済成長を達成して,経済的にアメリカを追い越す「東昇西降」の実現疑いなしの雰囲気だった。3月末に上海がコロナ対策のロックダウンをしたが,直後の北京冬季五輪・パラリンピック総括表彰式で習主席は,もしコロナ対策に金メダルがあれば中国は金メダルをもう1枚もらえる,と誇った。2月初めにはプーチン大統領と「両国の協力にタブーはない」との中ロ共同声明を発表し,中国の安全保障は一層堅固になったかに見えた。

 現在の中国は,1年前とは真反対である。コロナ死亡者数は,随分多い報道だ。統計では消費は9月以降,輸出は10月以降前年割れが続き,重要産業の自動車生産は11,12月と前年割れ,半導体生産は1年のうち11ヶ月が前年割れだった。青年層の失業率は高止まりし,専制強化と言論統制で「西朝鮮」になったと囁かれて,高学歴青年の「潤学(国外脱出)」が話題になっている。ロックダウンを恐れて企業もハイクラス人材も富裕層も海外に向かっている。

 国際的には,戦狼外交,ウクライナ侵略のロシア支持,台湾侵攻姿勢,新疆ウイグル族人権弾圧などによって先進国の対中感情は全面的に悪化して,国際的に孤立し地位も低下した。

 現在の中国は習政権10年の成果だが,習総書記が三選されたことは従来の政策基調がさらに10年間続くことを予想させる。

脱中国はASEANの発展を加速させた

 世界の昨年のASEAN向け直接投資件数は20%以上増加し,反面では中国向けは30%以上減少した(UNCTAD資料)。もともと中国からASEAN進出が増加していたが,脱中国はASEANの経済成長の追い風になった。昨年は中国の成長率が3.0%へと低下したのとは反対に,フィリピン,ベトナム,マレーシアは7%以上の高成長を遂げ,3億人近い人口のインドネシアも5%以上成長した。関係が深いインドも,7%近い高成長を実現した。

 ASEANの成長は輸出主導だが,輸出の相手国依存度は中国16%,米国15%,EU9%,日本7%とバランスが取れていて,特定国に偏ってはいない。今後中国の景況が改善すればASEANの対中輸出は増加し,加えて中国の対米輸出に困難が増せば代わりに対米輸出が増加すると思われ,ASEANの経済は一層発展する。

ASEANの発展で東アジアのパワーバランスが変わる

中国にとって米国と同等の大輸出先になった

 ASEANと中国の貿易は,急速に拡大している。昨年の中国のASEAN輸出は5,700億ドルで,対米輸出の5,800億ドルとほぼ同額になった(ジェトロ資料)。中国は米国を最大の輸出先として重視してきたが,ASEANはいまや米国と同等の大きな輸出先になった。中国は領海問題で近隣小国を圧迫しているが,ASEANが米国と同規模の大顧客となった事実の認識が深まるにつれて,外交姿勢に変化が生じることが期待される。

経済力向上で国防充実が進んだ

 GDP規模ではASEANはまだ世界の3.5%に過ぎないが,世界の経済成長センターの魅力で米欧諸国を引き付けている。高い経済成長と先進国の支援もあって,メンバー国には国防充実や領海警備能力充実の余裕も増えてきた。

首脳外交の枢要な舞台になった

 ASEANの「インド太平洋アウトルック(AOIP)」は,日米欧印豪の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と同じ価値観を持ち,国際法秩序のもとで「対話と協力」を志向している。ちなみにインドは世界5位の経済規模に成長して,FOIPの求心力を高めている。

 この大きな枠組み下で,ASEANはAPEC,EAS(東アジア首脳会議),TPP11,RCEP,G20,IPEFなどの政治外交網に重層的に覆われて,毎年主要国の首脳が集まるようになった。昨年11月のG20ジャカルタ首脳会合,APECバンコック首脳会合にはほぼ全主要国から首脳本人が出席し,習主席も各国首脳と稀な笑顔で会談した。中国では,習主席本人と直接に意見を交換することが絶対的に重要である。習主席とバイデン大統領,岸田総理との会談で台湾海峡の武力衝突の緊張が僅かながらも緩和され,さらに首脳および主要閣僚の交流を進める建設的な合意が出来た。首脳の直接対話の大きな成果だった。経済力向上に加えて各国首脳が毎年会談する場を提供することによって,域外国はASEANとの友好をますます重視するようになると期待される。

 インド・太平洋の中心に所在するASEANの経済的発展に協力することは,東アジアの平和と安定強化につながる。日本としても積極的姿勢が必要だ。2010年に発効した日ASEAN・FTAの画期的拡充,米国のTPP復帰の説得など取り組むべき課題は多い。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2837.html)

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