世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2823
世界経済評論IMPACT No.2823

中国の台湾侵略戦争に勝者なし:米・戦略国際問題研究所の机上演習

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2023.01.23

 米・シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は,2023年1月9日に「次の戦争の最初の戦い:中国対台湾侵攻に対する机上演習(The First Battle of the Next War: War gaming a Chinese Invasion of Taiwan)」と題する報告書を発表した。2026年に中国が台湾侵略戦争を起こすと仮定し,これに米国が参戦するシナリオの下で行った24回の戦争シミュレーションである。これは史上最大規模の台湾海峡における戦争シミュレーションである。侵攻は最初の数時間で台湾の海空軍の多くを破壊する爆撃で始まり,人民解放軍の海軍が台湾を包囲し,数万人の兵士が軍用揚陸艇や民間船舶で海峡を渡り,空挺部隊が上陸拠点の後方に着陸すると予測する。しかし,最終的には,中国の企みは失敗し終焉を迎える。一方,アメリカ,中国,日本,台湾はこの戦争で悲惨な代価を払うことになると予測している(台海兵推》美智庫24次兵推中國2026攻台 解放軍恐以失敗告終)。

 CSISのシミュレーションによると,アメリカ海軍は航空母艦2艘と大型軍艦10艘から20艘を損失し,米軍要員およそ3200名は3週間の軍事作戦で命を失う。また,日本も戦闘機100機以上と自衛艦26艘を損失すると予測され,駐日米軍基地も中国の攻撃を受けることになる。

 他方,人民解放軍も同じように重大な損失を蒙る。主な水陸両用作戦部隊はほぼ殲滅され,人民解放軍兵士約1万人が戦死する。戦闘機155機と主な軍艦138艘を損失,万人単位の軍人が捕虜になると予測している。

 また,台湾海軍の駆逐艦4艘,巡防艦(フリゲート)22艘の計26艘が撃沈され,陸軍要員3500人が死傷すると見ている。台湾軍は壊滅には至らないが,戦力に大きな打撃を受ける。また,台湾は電力インフラに大きな打撃を蒙ると予測されている。

 CSISの提言は,米台の軍隊が中国による台湾占拠を防ぐために,次の4つの条件を満たすことが不可欠であると指摘する。すなわち,⑴台湾の地上部隊が人民解放軍の上陸を防ぐこと,⑵米軍は直ちに日本の基地から作戦に参加すること。在日米軍基地からの展開は,武力介入の「前提条件」である。⑶米軍は長距離対艦ミサイルを使い人民解放軍の軍艦を破壊すること,⑷米軍は中国の侵攻後,直ちに武力介入すること,を強調した。

 一方,CSISのレポートは,「ウクライナに対する救援モデル」を台湾に適応することは難しいと指摘する。その理由は開戦後,台湾の周辺の海上が封鎖される可能性があるため,部隊の派遣や物資の台湾への輸送が困難になるためだ。ロシアによるウクライナ侵攻後,アメリカと欧州(EU)から次々と支援物資を陸路運びこんだようには行かない。シミュレーション・プロジェクト担当者の一人のマーク・カンシアン(Mark Cancian)は,「台湾側はどんな方式で対戦するにしろ,戦争の開始までに充分な武器・弾薬の在庫を備えることが必要である」と述べた。

 また,レポートは,台湾海峡での武力衝突にアメリカの迅速な行動が必須と指摘し,そのためには中国のミサイル攻撃に対する日本とグアムの米軍基地の防御力の強化,海軍の軍艦の小型化,潜水艦部隊の優先的活用,戦闘機に替えて航続距離の長い爆撃機部隊の優先的配置を提言している。また,台湾には「戦闘機を購入・配置させるべきだ」と主張する。中国の侵入時の先制攻撃に軍艦は,ターゲットになる可能性が高いため,台湾はより機動力の高い兵器をプラットフォームに武装することが必要と強調している。「非対称戦争(当時者間の軍事力が大きく異なる戦争)」への対応を重視する作戦を推奨した。

 CSISは,台湾有事の発生を不可避とはしていない。中国は台湾に対し,外交的孤立を迫ること,グレートゾーンに威圧(台湾周辺に軍機による威圧,情報戦,フェイクニュースなど)や経済的威圧で攻撃をかけることも想定している。シミュレーションの結果,中国の目論見が成功しなかった場合,戦争に発展する可能性が低い。他方,中国が戦争の結果,大きな損失を蒙り,台湾の占領に失敗した場合,中国共産党の中国での支配が不安定になる可能性が極めて高い,とレポートは述べている。

 2022年12月23日,バイデン大統領は「米国国防権限法2023(national defense authorization act 2023;NDAA2023)」に署名し,法案が成立した。法案は,大統領は緊急時の在庫引き出し権限(presidential drawdown authority)を行使し,議会の承認なしに国防省から年間10億ドル在庫分の防衛物資やサービスを台湾に提供できるとしている。また,台湾向けの弾薬および他の軍備品の「地域応変軍備在庫(regional contingency stockpile)」の提供も,大統領に権限を与えた。法案の中には,2023年~2027年に台湾に年間最大20億ドル(5年間で合計100億ドル)の無償軍事援助を提供するなどの内容も含まれている。

 そのほかに,近年のアメリカによる台湾への兵器輸出の内容を見ると,法案の「台湾の地上部隊が人民解放軍による上陸を防ぐことができるよう」という内容が反映され,「上陸抑止」を目的とした武器供与であることがわかる。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2823.html)

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