世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
次世代革新炉の何が有意義か
(国際大学 副学長・大学院国際経営学研究科 教授)
2022.11.07
今年8月,岸田文雄政権が年末までに政治決断を下すテーマの一つとして「次世代革新炉の開発・建設」を取り上げたことに対し,一部のメディアは,「原子力政策の転換だ」と大々的に報じた。しかし,筆者は,「政策転換」と判断するのは時期尚早だと考える。誰(どの事業者)が,どこ(どの立地)で,何(どの炉型の革新炉)を建設するのかについて,まったく言及していないからである。
原子力発電を使い続けるのであれば,危険性の最小化が大前提となる。そのためには,古い炉よりも新しい炉の方が良いことは,論をまたない。その意味で原子力政策は,「リプレース・新増設」を語るべきで,「古い原子炉の運転延長」を語るべきではない。
確かにアメリカ等では既設原発の運転延長が進んでいるが,「地震・津波・火山リスク」がある日本にこれをあてはめることは危険であろう。1971年3月に運転を開始した東京電力・福島第一原子力発電所1号機は,まさに40歳の誕生月(2011年3月)に水素爆発した。これを教訓に,自民党や公明党も賛成して,原子炉等規制法を改正し,「40年廃炉基準」を導入したことを忘れてはならない。
筋が悪い「既設原発の運転延長」論とは対照的に,原子力政策において「リプレース・新増設」を語ることには意味がある。ただし,ここでは,二つの点に留意すべきである。
一つは,今日の日本においては,原発の新規立地はきわめて困難であるから,現実には「新増設」は既設原発と同じ敷地内で行われる点である。もう一つは,「リプレース・新増設」を行うことは,「原発を増やす」ことを意味しない点である。「リプレース・新増設」の本質的な価値が原発の危険性を小さくすることにある以上,「リプレース・新増設」を進めるに際しては,並行して,より危険性が大きい古い原子炉を積極的にたたむべきである。つまり,既設原発と同じ敷地内で行われる「新増設」は,古い炉を新しい炉に建て替える「リプレース」として行われるべきなのであり,「リプレース・新増設」という表現ではなく,建て替えを意味する「リプレース」という言葉に集約すべきだということになる。
日本は,2018年に閣議決定した第5次エネルギー基本計画を契機に,「再生エネルギー主力電源化」の方向に舵を切った。「再生可能エネルギー主力電源化」は,「原子力副次電源化」と同義である。これらの事情をふまえるならば,わが国の原子力政策の主眼は,古い炉を新しい炉に建て替える「リプレース」を進めながら,原発依存度を徐々に低下させることに置かれるべきである。
「リプレース」を進めるにあたって,筆者が注目している炉型が二つある。次世代軽水炉と高温ガス炉だ。
日本の原発設備は,最新鋭であるとはとても言えない。それでも全体の半分強(17基)を占める沸騰水型原子炉については最新鋭のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)が4基存在する(東京電力・柏崎刈羽6/7号機,中部電力・浜岡5号機,北陸電力・志賀2号機)が,残りの半分弱(16基)の加圧水型原子炉については最新鋭のAPWR(改良型加圧水型軽水炉)やAP1000が皆無である。中国では,2018年に,最新鋭の加圧水型原子炉であるAP1000やEPR(欧州加圧水型炉)が稼働したにもかかわらず,である。このような状況を改善するためには,とくに古い加圧水型原子炉を次世代軽水炉にリプレースすることが,重要な意味をもつ。
いわゆる「新型炉」のなかでは,高温ガス炉に期待したい。電力だけでなく,900℃以上の熱を利用して水素を生産することができるからである。水素は,日本のカーボンニュートラル戦略の帰趨を決するキーテクノロジーであるが,製造コストが高い点に問題がある。コストを下げるために,現在進行中の水素プロジェクトの大半は,グリーン電力の料金が日本より安い海外での生産を予定している。しかし,それでは水素を輸入することになり,わが国のアキレス腱であるエネルギー自給率の低さを解消することにはならない。もし,高温ガス炉が国内に建設されれば,低コストで大量の水素を生産することに道を開く。水素国産化の展望が開けるのである。
もし年末までに,「関西電力が(場合によっては他電力会社の協力を得て),美浜発電所で原子炉のリプレースを行い,古い加圧水型の3号機を廃止して,次世代軽水炉の4号機を建設する」とか,「日本原子力発電(原電)と関西電力が,空き地となっている原電・敦賀発電所の3/4号機の予定地で,高温ガス炉を建設し,あわせて水素発電を行う」とかいうような具体的な方向性が示されることになれば,「政策転換」が本物になったと評価してよいだろう。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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