世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
地域産業発展に,国立大と専門職人材が果たす役割:今後の外国人留学生受入れ拡大準備の対策として
(SPCコンサルティング株式会社Labo 所長)
2022.10.03
海外から二十年以上遅れて,国内企業でJOB型人事=専門職制度導入が始まった。今後特に期待されているのが外国人留学生で,人事制度の障壁がなくなったため,専門職人材として国内で就職し,地方経済を活性の担い手として日本定住が期待されている。
専門職制度の解説とメリット
日本が世界二位の経済大国であった時には,外国人留学生が北米・欧州からも多数来ていたが,その多くが日本企業の終身雇用型の人事制度に幻滅し去っていった歴史があった。専門職制度では能力要件と業務内容を定義,職務遂行を確約し契約を交わす等,外国企業の人事制度と同じ様式を取る。東京在所の大企業はもちろん,地方企業でも専門職制人事制度の一部導入があれば,外国人留学生の高度職業人材の受入れが容易くなる。
事前に大学教員に専門職制の説明をしたところ,「成績評価」が不安とのことだった。例えば北米の大学では,パイソン言語は半期履修で昼間は授業で夜は課題演習があり不明部分はTAが個人指導,修了試験を経て単位認定を行う。他方,国立大学では教員数が少なく同様の授業は丸1年かけ単位認定を行うが,双方現況を見る限り能力格差は見られない。
国立大学が有する研究商材と専門職人材が,地方経済で期待される役割
全国の国立大学法人では既卒対象のリカレント教育(学び直し)が導入され,表面的には体制が整ったように見えるが実際はそうではない。47都道府県の中で15校を調査したところ,専門職制を意識したカリキュラム提供が行われているのは,卓越研究を持つ旧帝大系がほとんどで,人材教育を担う国立大学の多くでは生涯教育型カリキュラムが多く,地域の特色ある産業の新事業企画を後押しできる体制には至っていない。地方経済では中堅中小企業の事業継承が大きな社会問題となっているが,引き継ぐ経営者が見つかった後も「古びた事業の入替え」をする必要がある。しかし,地方ではビジネスの種も開発する専門人材も揃っていない。そこで期待されるのが国立大学の研究商材と高度専門職人材である。
収益化に成功する国立大学と地域経済貢献モデル
現在,研究の外部契約で成功している国立大学では,学長室に戦略ガバナンスが設置され,学内の研究商材を紹介する営業部隊を配置,国・地方行政や企業と連携し研究開発契約の締結や外部研究員の受入れ教育などを盛んに行っている。主な成功事例は東北大学と複数の大学がワンチームで機能する北海道大学連携で,従来とは全く異なる大学法人の収益化活動が営まれている。また東大工学部や旭川医大では,従来の産学機構運用から一般社団法人やスタートアップ企業での研究収益化転換を図っている。
他方,長年にわたり特性ある産業とビジネスモデルを世界に送り出しているのが京都府で,国際競争力高く独自色の強い企業と事業群を輩出しているが,その背景にあるのが京都大学で,独自研究商材と高度専門職人材によって世界市場に羽ばたく産業界を支え続けている。外国人留学生も独自事業を売りにする専門企業に就職し,自身の研究成果を生かしながら日本に定住している。また四国では,徳島大学がバイオ工学系に特化した研究と専門人材育成を行っており,大阪・京都両大学のバイオ製薬研究を培養機材開発で支える役目を担っている。
外国人留学生の募集と受入れでは,専門履修,就業希望と地方配置が決め手に
一番期待されるのは北米からの留学生である。北米の大学は学費が年間二百数十万円するため,学費が無料のEUの大学へ留学する話も聞かれる。一方,日本の国立大学では英語での会話や授業も可能なため留学生を受入れ易い。特に北米の大学の医学部は,卒業までに四千万円ほど学費がかかるが,医師免許が共有できるメリットを生かし,北米からの留学生受入れ体制を整えれば成果が出やすい。外国人からの留学生は多国籍な人間社会で生活しているケースも多く,異文化への適合力も高く多言語習得能力も高い。日本の国立大学が北米からの留学生に選ばれる基準を満たすためには,国際学部を導入,特に専門分野の医薬理工系の再編が急がれる。
ただし日本型研究現場にはこんな不満不利点
多くの欧米系留学生にとって,日本の研究現場のスタイルは古臭く映る。以前から留学生が日本の大学院に入ると年功序列組織に組み込まれ,新人の研究生は徒弟扱いを強いられるため封建的で窮屈と感じている。日本の社会人学生も同感であるため,研究現場は個人主体で必要に応じて指導を受ける自主的な研究体制があってほしい。研究者自身に外国人留学経験があったほうが留学生受入れはスムーズになるため,研究指導者の人選は事前にあったほうが良い。
日本ならではの得意分野1
日本の大学に学ぶ利得がないと外国人留学生はやって来ない。日本が誇る技術に発酵がある。日本社会には健康維持に発酵機能食品が多数ある。発酵技術研究はバイオ製薬や機能性食品加工において,引き続き収益を上げる分野である。北米では70年代の紅茶キノコ健康飲料がスーパーで高額販売されているなど,日本国内とは違った消費市場動向があるため発酵技術研究は優位に機能できる。
日本ならではの得意分野2
今も昔も日本の一番の強みは工業品製造と関連の高い技術力にある。大型産業機器など機械製造製品にはふんだんに優れた技術が使われ,ソフト面も含めアドバンテージが高い。かつての家電産業のように利益獲得ができず人材・技術を丸ごと手放すことがないように,工学部でしっかりと技術開発と製造ノウハウを学んでもらい,世界中どこの地域でも製造業が可能となるように開発技術の研鑽と専門人材の育成は絶やしてはならない。今後は半導体や原子力産業の人材育成も増加する。外国人留学生受入れのメリットとして,卓越したITソフト開発能力が高校時代までに仕込まれている事例が多いことがあげられる。その専門的特性を日本の持つ強みと合わせ,大学で工学知識の研鑽と技術実践履修を行ってもらいたい。
日本ならではの得意分野3
製品に組込みの素材成型技術にも強みがある。代表格は新潟県燕三条の金属加工技術で世界市場の無二を誇る。各種素材の成型技術には細かな設計が施され,海外市場では日本のデザインは一目で判別がつく。逆に日本製品にそれがないと利用上のメリットが薄れる。例えば家庭用エアコンの送風機能の羽を例にとると,日本設計には上下左右の動作があるが,非日本設計では上下動作しかついていない。
まとめ
全国の国立大学では独立経営を目的とした新しい研究収益化活動が始まっている。また産業界の専門職人事制度導入に伴い,外国人留学生の受入れを増やす体制も構築できた。今後の地方経済の発展には,国立大学の研究が事業シーズとなり,外国人留学生を含めた専門職人材が事業の起爆剤となることは間違いない。日本社会に暮らす優位点は一番に安心安全で,世界の親が子を送り出す動機付けにもなり,生活相談カウンセラー配置で心理面のサポートがあれば万全の体制となり得る。以上,これからの新産学官連携では,外国人留学生の高度専門職人材の就業と定住の増加により,研究商材と専門能力が価値提供され,一番に地方経済を勇気づける成果をもたらすことは間違いない。
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