世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2511
世界経済評論IMPACT No.2511

最終決戦を迎えるフランス大統領選挙

平石隆司

(欧州三井物産戦略情報課 GM)

2022.04.18

 4月10日,仏大統領選の第1回投票が実施され,共和国前進(中道)のマクロン現大統領が得票率27.9%でトップ,国民連合(極右)のルペンが同23.2%を獲得し2位となり,2017年の前回選挙同様,4月24日の決戦投票へ進んだ。

 以下僅差で,不服従のフランス(極左)のメランションが続き(同22.0%),第四位には「再征服」(極右)のゼムール(同7.1%)が入る一方,かつての保革二大政党である共和党(右派)のぺクレス(同4.8%)と,社会党(左派)のイダルゴ(1.8%)は惨敗した。

注目すべき5つのポイント

 第一に,マクロン一期目の経済構造改革と,良好な経済パフォーマンスが国民から一定の評価を得た。マクロンは,欧州の病人と呼ばれていた仏経済に,法人税引き下げ,労働市場改革等を断行,コロナ禍では積極的景気下支え策を行い,GDPは他の欧州諸国に先駆けコロナ前の水準を回復。

 第二に,最重要争点は,物価上昇加速を反映し「購買力」であり,健康,移民,環境等を圧倒的に引き離す。第1回投票で,ルペンとメランションが二位,三位を占めたが,これは両者が掲げる,エネルギーへのVAT引き下げ,ガス・電気料金凍結等の政策が国民の評価を得たためだ。

 第三に,ウクライナ危機の選挙への影響だ。2月末~3月中旬迄は,RALLY ROUND THE FLAG効果が働き,マクロンへ支持が急上昇,30%を超えた。しかし,その後危機によるエネルギー,食糧等国際商品市況高騰による物価上昇率の加速という負の効果へ国民の関心が移ると,弱者重視の政策を掲げるルペン,メランションの支持率が急上昇,マクロンへの支持率は低下した。

 第四に,ルペンが前回大統領選惨敗への反省から進めてきた脱悪魔化戦略(ソフト路線)の成功だ。ルペンは,Frexit(仏のEU離脱),脱ユーロ,移民排斥等の主張を取り下げ,または声高に叫ぶことをやめ,生活者の目線を持つ庶民派候補へイメチェンに成功した。

 第五に,保革二大政党の凋落だ。ぺクレスは右派としてルペン,ゼムールの両極右候補の得票を大幅に下回り,イダルゴの得票率は僅か1.8%の泡沫候補に堕した。既存政党への不信が高まり,極右,極左の一定の支持基盤が形成され,親EU・ビジネスの中道とあわせ政党再編の流れが加速。

マクロンとルペンの政策比較

 国内政策についてマクロンは,一期目に続き労働市場改革や年金改革,戦略セクターにおける公共投資実施等,市場主義に基づく成長を狙う。一方,ルペンにはバラマキ的減税政策はあるが,整合性のとれた環境・エネルギー政策も含め成長戦略はない。財源も,富裕税導入,移民への社会保障給付削減等により賄うと主張も,財政赤字の大幅拡大は不可避だろう。

 両候補が大統領就任後これら政策を実行するには,6月12,19日実施の国民議会選でも勝利する必要があり,議会選の行方も要注視だ。

 対外政策は,マクロンは親EUの旗印の下,欧州統合を政治・経済・財政面で深化させると共に,EUの軍事面,経済面における戦略的自立を狙う。

 一方,ルペンは,Frexit等を表面的には封印も,実際には①憲法改正の上,フランス法をEU法に優先,②EUのその他地域とのヒト,モノの流れを制限,等EU単一市場と大きく矛盾し,EU条約違反となることは確実だ。ルペン政権誕生の場合EU統合は停滞を余儀なくされる。また,ロシア制裁について懐疑的立場を示していることも波乱要因だ。

4つのウオッチポイント

 第一に,第1回投票で敗退した候補者の支持者,特にメランション候補の支持者の動きが注目される。第1回投票後,ゼムールはルペン支持,ぺクレス,イダルゴがマクロン支持,メランションは消極的マクロン支持を表明も,支持者がどう行動するかは不透明。IFOP調査では,第1回投票でのメランションへの投票者のうち,決選投票でマクロンに投票と回答した割合は33%,ルペンが23%,残りの44%は棄権か無回答だ。第1回投票で敗退した候補者の支持者の取り込みが当選のカギだ。

 第二に,マクロンによるProject Fearの成否だ。マクロンは5年前同様,極右包囲網形成を国民に訴える。しかし,ルペンのソフト化路線が成功し信頼するに足る候補者と国民に認識され始めており,この戦略の有効性は低下している恐れがある。

 第三に,マッキンゼーゲイト。マクロン任期中に政府による同社への支払いが倍増。またマッキンゼーは過去10年間仏で法人税を払っていないとの疑惑が持ち上がり,捜査動向次第でマクロンは足を掬われかねない。

 第四に,4月20日実施のテレビ討論の成否だ。5年前の大統領選では,ルペンが過激な主張をマクロンに突っ込まれ守勢に回り決選投票で大敗した。今回は庶民派候補へイメチェンしたルペンの捌きが注目される。

 各種世論調査では,決選投票でマクロンとルペンの差は2~8%と,マクロンのリードは前回大統領選ほど大きくない。マクロン勝利がメインシナリオだが,第1回投票終盤戦における支持率の変動にみられる通り不確実性は高い。ルペン政権誕生の場合の金融・経済へのインパクトの大きさに鑑み,予断を持つことなく前述したポイントをウオッチし柔軟な対応を心掛ける必要がある。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2511.html)

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